土筆(つくし)春を告げる草:水彩で描く折々の草(壺齋散人画)

暦が啓蟄をまわって土がぬるんでくると、土筆が土中から頭を出して、いち早く春の訪れを知らせてくれる。誰でも子どもの頃に、田んぼのあぜ道や畑の中、あるいは都会の公園の一隅にひっそりと、しかも力強く頭を持ち上げている土筆の姿をみて、思わず歩み寄って摘み取った経験をお持ちのことだろう。
「つくし誰の子 杉菜の子」と歌われるように、土筆は杉菜の胞子茎である。春の間にあの筆のような形をした頭から胞子を散布すると、夏には杉の葉のような細い葉をはびこらす。
杉菜は食用のほか薬用にも用いられる。最近は花粉症に効用があるといって、見直されているという。土筆もやはり食用になり、佃煮にするとうまい。
土筆を愛した文人としては、正岡子規がある。死の直前まで書き綴った「病臥漫録」のなかで、門人の伊藤左千夫が梅の花とともに土筆を手折って持ってきてくれたのに感じ入った子規は、次の歌を読んでいる。
くれなゐの梅散るなへに故郷に つくしつみにし春しおもほゆ
また、河原崎碧梧桐が赤羽まで土筆を摘みにいくと聞いて、若い頃自分も王子に遊んだ頃のことを懐かしみ、土筆の歌を十首ばかり詠んだ。ここではそのうちの一首をあげておこう。
つくつくしつめて帰りぬ煮てやくはん ひしほと酢とにひててやくはん
子規の食道楽ぶりが伺われる歌である。
この絵にある土筆は、市川駅近くの江戸川の土手にあったものを、知人が土ごと掻きとってきたものである。姿がかわいらしかったので、一枚の水彩画に描いてみた。
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