
東京下町の夏の風物詩になっている三社祭に、今年はちょっとした異変が起きた。三社の名のとおり三体ある本社神輿の渡御が今年は行なわれなかったのだ。三社祭といえば、本社神輿の渡御が最大の行事であるから、これが行なわれないでは、祭の雰囲気は今ひとつ盛り上がらない。
何故こんな事態が起きたのか。神社が奉賛会と共同で出した声明によると、本社神輿に人が乗ることは許されない。それにもかかわらず、この数年神社側の制止を無視して、神輿に乗るものが絶えなかった。そこで今年は、本社神輿の渡御を取りやめることによって、不心得な人びとに反省を促すのだとある。
神輿に人が乗って、担ぎ手を煽る光景は、所々で見られるところだ。だから普通の見物人などは、祭に色を添える景気付けのようにも見えるが、神社にしてみれば、神輿とは神様の乗り物であり、それに人が乗るなどはとんでもないということらしい。浅草では、昔は二階の窓から神輿を見下ろすことさえ許されなかったという。いまでも、歩道橋の上に見物人を滞留させない工夫をしているのは、神輿を見下ろされることを嫌ってのことだ。
三社祭では、人が神輿に乗るのは最近に限った現象ではなかった。古老のいうところによれば、30年ほど前までは、神輿に芸者を乗せたこともあったという。そんなところから、威勢の良さを売ろうと、神輿に乗るものが現れたらしい。
神社側は、昔のことはさておき、神輿に乗ることは許されないのだと強硬な姿勢を示している。しかもそれらの人々が褌一枚で、背中には派手な刺青をしていることを、神様への冒涜だと非難している。
こんな訳で今年は、本社神輿は神社脇にあつらえられた仮の建物の中に安置されたままだ。神様にはここにお出まし願って、静かに町の様子をご覧戴こうという趣向だ。神輿は渡御の際には布でぐるぐる巻きにされるのだが、今年は本来の姿のままで安置されている。
例年三社祭りは、土曜日に町神輿の連合宮出しがあり、日曜日に本社神輿の渡御が催される。本社神輿の渡御は無論、町神輿が一同に会して一斉に宮出しをするのにもそれなりの迫力がある。
今年は、本社神輿の渡御が行なわれない代わりに、日曜日に町内神輿のパレードを派手に演出し、祭の雰囲気を高めようとしていた。
雷門通りと馬道を午前11時から午後7時まで車両通行止めにして、町神輿のパレードに開放した。町神輿の数は40以上あるから、それらが集まってパレードをすると、結構な迫力がある。
東京の祭のなかでパレードを売り物にしているのは深川の祭が第一だが、三社のほうも、パレードに力を入れると、祭の雰囲気が華やかさを増すかもしれない。
だが三社祭といえば何と言っても、本社神輿の渡御が売り物だ。来年は正常化することを望みたいものだ。
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