ジョン・キーツは、不治の病に襲われ自分の死を身近なものとして考え始めて以来、様々な形で死というものに立ち向かい、それを詩に歌った。それらは、輝かしかった日々への愛惜の念であったり、愛する人々への感謝の気持ちであったり、死すべき身にして恋をしたことへの自責であったりした。
キーツは死を考えるたびに、恐怖と戦慄を感じたに違いない。その感情は理屈ではいたし方のないものだ。だが、キーツは最後には、死の恐怖を乗り越え得たのかもしれない。
「死」と題する詩は、キーツが死を自分のものとして受け入れた、その思いを歌ったものである。
死
生きることが夢に過ぎず 至福のときも幻影ならば
死ぬことは眠りの続きのようなもの
つかの間の喜びも幻に過ぎない
なのに人間は死を忌み嫌う
人間がこの世でこうむるのは
苦しいことばかりなのに
茨の道のかわりに安楽の未来を
待ち望まないのは奇妙なことだ
この詩から伺う限り、キーツは信仰の中にではなく、哲学的な諦念によって、死の恐怖を乗り越えようとしたかに見える。
On death
Can death be sleep, when life is but a dream,
And scenes of bliss pass as a phantom by?
The transient pleasures as a vision seem,
And yet we think the greatest pain's to die.
How strange it is that man on earth should roam,
And lead a life of woe, but not forsake
His rugged path; nor dare he view alone
His future doom which is but to awake.
関連リンク: 英詩のリズム>ジョン・キーツ John Keats :生涯と作品
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