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労働者派遣法の改正論議に寄せて


日雇い労働者の派遣禁止を内容とする労働者派遣法の改正案が、国会で継続審議扱いのままになっている。この法案の審議が進まないうちに、雇用情勢が一段と悪化し、いわゆる派遣切りという事態が生じてきていることは周知のとおりだ。

こうした状況を背景に、この際労働者派遣法を抜本的に改正し、労働市場に秩序を回復させるべきだとの議論が高まってきた。これに対して増添厚生労働大臣も、私見だと断りながら、たとえば製造業への派遣を禁止するなど、大幅な改正はありうると明言している。

現職の大臣までがこういわざるをえないのは、この法律の今のあり方が、この国に大量の非正規雇用をもたらし、それが大きな社会問題を発生させたとの反省があるからだろう。

そもそもこの法律ができたときには、労働者の派遣は一種の必要悪との認識があったはずだ。通常の労働市場を通じては、質の高い労働力が即戦力として確保できないという事情が企業の側にあり、労働者の側には弾力的な就業機会を求める声があった。(すくなくとも表向きではそういうことになっていた)だから適用範囲も、高度な熟練を要するような、質の高い労働分野に限定されていた。

このような前提では、雇うほうと雇われるほうとは、互いにギヴ・アンド・テークの関係にあり、両者の力関係はそんなにかけ離れたものではない、そういう了解があったはずだ。

ところがその後適用範囲がなし崩し的に拡大され、小泉政権時代の2004年にはすべての規制が撤廃されて、派遣労働はあらゆる業種に浸透していった。その結果がどうなったかは、これまた周知のことだ。

いまや派遣労働は非正規雇用を大量に生み出す最大の原動力だ。その非正規労働者は全労働人口の3分の1を占めるまでになった。彼らはみな低賃金で、働く上での権利から疎外されているといってよい。その彼らを称して「ワーキングプア」とか「労働難民」とかいう言葉まで生まれている。また「下流社会」などといった笑えない言葉まで流通しているありさまだ。

派遣労働がすべて悪いということではないだろうが、それが雇用の本流となるような社会は病んだ社会だといわねばなるまい。

派遣労働の持つ問題点は、さまざまに論じられているのでいまさら詳述はしないが、やはり最大の問題は、労働者の権利を守るシステムが欠けていることだろう。受け入れ先の企業は派遣労働者の権利に全く無関心である。派遣元の会社もまた、労働者をビジネスの道具として扱うだけで、彼らの権利に責任を持たないことは多くの事象が物語っている。

日雇い労働の派遣にいたっては、派遣会社のやっていることは、一昔前の山谷の手配師と全く異なるところがない。

なぜこんなことがまかりとおる社会になってしまったのか。この国にも労働者の権利保障を役割に掲げている官庁はある。だがそのやっていることは看板に書いていることとは正反対だ。こういわれても仕方がないだろう。

ともあれ、労働をめぐる事態がかつてない矛盾を生み出している今こそ、雇用についての新しいルール作りを模索すべきときだ。


関連リンク:日本の政治と社会

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    コメント (1)

    まさと:

    少し読ましてもらいましたが、派遣切はあってもよいと思う
    現実的な話として、派遣の人達は、基本的に同じ仕事を何年もする事を嫌う又普段から贅沢な暮らしをしている。考え方が甘い。 今人手不足で困っているところは沢山あるのに、働こうとしない。人の情けに甘えて楽をして人一人前の給料を取ろうとする。まったく話にならない。
    今世間で色々と騒がれていますが、テレビなどを見ていると何を甘い事言っているのかなと思う。
    派遣労動者にはもっと厳しく、働かざるもの食うべからずの
    精神で対処して欲しいと思う。
    今の日本で仕事が無いなんてバカな事はでったいに無い。

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