1983年にドイツのメッセル窪地で発見されていたサルの化石が、その後の調査の結果、人間を含む類人猿全体の祖先であることがわかってきた。アイダと名づけられたこのサルは、4700万年前に生きていたもので、偶然が作用して、ほぼ完全な形で保存されていた。
アイダはキツネザルなどの原始的なサルに比較して、類人猿に近い特徴を有している。長い尻尾こそつけているが、手足はほかのサルより短く、手の親指はほかの4本の指から離れて物をつかむのに都合のよい形になっている。また目は前方をまっすぐ見るようにできていて、歯並びも人間や類人猿に近い。
こうした身体的な特徴から、生物学者たちは、アイダが原始的なサルと類人猿との中間に位置するものだと判断した。言い換えれば人間を含めた類人猿全体の共通の祖先だと判断したわけである。
4700万年前といえば、始新世に当たる時期である。この時期は地球の歴史上今日の地球の姿と同様の条件が整備されつつあった時代で、前時代の恐竜が姿を消し、哺乳類が急速な進化を遂げつつあった時期である。また地質学的にも、ヒマラヤが形成されるなど、今日の地球に近い姿へと生まれ変わっていた。
最初にこの化石を発見したのは、ドイツの素人コレクターたちであった。彼らはこの化石の重要性を十分理解していなかったので、収容する際に骨の部分を折るなどの損傷を加えた。それでも全体の95パーセントが破損せずに残っていたというから、人類史の研究にとっては貴重な化石である。
科学者たちが想像するところによれば、アイダは4700年前のある日、メッセルの窪地にたまった水を飲もうとして誤って水中に落ち、そのまま水底に沈んだ後、そこでのユニークな条件が幸いして、ほぼ完璧な形を保ったまま今日まで残ったものらしい。
アイダの胃の中を調査したところ、果実の種や草の化石が発見されたということだ。そのことから、アイダは草食性だったと推測されている。
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