李白の五言絶句「晁卿衡を哭す」(壺齋散人注)
日本晁卿辭帝都 日本の晁卿帝都を辭し
征帆一片繞蓬壺 征帆一片蓬壺を繞る
明月不歸沈碧海 明月歸らず碧海に沈み
白雲愁色滿蒼梧 白雲愁色蒼梧に滿つ
日本の晁卿は長安を去り、船の帆をはためかせて日本へと向かった、ところが名月のように聡明な晁卿は碧海に沈み、白雲が憂いを帯びて蒼梧の海を覆う
晁卿衡は安倍仲麻呂のこと。仲麻呂は遣唐使の一員として717年に長安にわたり、唐の王朝に使えて玄宗にも重く用いられ、高官にまで出世した。李白が仲麻呂と知り合ったのは、長安にいた743年頃のことだろう。
753年仲麻呂は帰国の許しを得て、寧波から乗船し帰国の途に就いた。ところが嵐のために船は難破、仲麻呂は日本ではなく安南に流された。結局再び長安に舞い戻った仲麻呂は、770年に70歳で死ぬまで中国で暮らした。
この詩は、仲麻呂が難船して死んだといううわさを聞いて作ったものだろう。哭とは、人の死を悼んで泣くという意味である。李白が人の死を悼む死を作るのは非常に珍しいのだが、仲麻呂に対しては、それを捧げたいと感じさせるような特別の思い入れがあったのだろう。
関連サイト:
コメントする