どこの国の建築物もそうかもしれぬが、特に日本の木造建築にあっては、屋根の形がその建物の印象を決定的に左右する。古びた木肌からなる基体の上に、瓦葺にせよ、茅葺にせよ、または銅葺にせよ、巨大な屋根が覆いかぶさるように乗っている姿は、その建物にオーラのような輝きをもたらす。日本の建物の美しさは、屋根の美しさといっても過言ではない。
日本の屋根の形には、古来基本的には三つのパターンがあった。切妻、寄棟、入母屋である。このほかに国会議事堂の上に乗っかっている宝形の屋根といわれるようなものもないでではないが、例外といってよい。
切妻は弥生時代にさかのぼるほど古い形で、日本の木造建築にとって、屋根の原初的な形と考えてよい。頂上(棟という)が一本の線をなしていて、その両端が三角形を描いている。今でも日本の家にみられる最も標準的な屋根の形だ。
日本に限らず世界中にみられ、木造建築の屋根としてはありふれたものだ。ちなみに、建物の出入り口が妻側(三角形の部分)に開いているのを妻入り、その逆を平入りという。
切り妻が一つの棟しか持たないのに対して、寄棟は複数の棟をもつ。改めて解説すると、棟とは屋根の頂上にある稜線のような部分のことだ。これが複数あるところから、寄棟という言葉が生まれた。
入母屋は切妻と寄棟を足して二で割ったようなものだ。寄棟の一部を開いてそこに切妻の一部をはめ込んだようなかたちで、寺社建築で多く見られる。
寺社建築に限らず日本の建物は深い庇をもつものが多い。これは母屋の軸組の周囲に大きくはみ出すような形で屋根を乗せることから生まれる。日本の建築の特徴とされる陰影は、この庇の存在によって可能になるのである。
屋根を葺く材料として瓦が普及するようになったのは近世以降で、(寺院については古代から用いられてきた、また寺院では銅葺も合わせて行われてきた)、それ以前は、藁、萱などの草、木の皮などが主流だった。
民家については、ごく近年まで茅葺の屋根があちこちで見られたところだ。しかし最近では、軽量スレート瓦が多く普及するようになった。美しさということのほかに、耐震性が大きな問題となり、屋根は軽いほうがようという考え方が広まったせいだ。
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