杜甫の七言律詩「負薪行」(壺齋散人注)
夔州處女髪半華 夔州の處女は髪半ば華なり
四十五十無夫家 四十五十にして夫家無し
更遭喪亂嫁不售 更に喪亂に遭ひて嫁售れず
一生抱恨長咨嗟 一生恨を抱いて長(とこしへ)に咨嗟す
土風坐男使女立 土風男を坐せしめ女をして立たしむ
男當門戶女出入 男は門戶に當たり女は出入す
十猶八九負薪歸 十猶八九薪を負ひて歸り
賣薪得錢應供給 薪を賣り錢を得て應に供給す
夔州の女は白髪混じりの者が多く、四十五十になっても嫁ぐことがない、その上騒乱ともなれば男も少なくなり、一生恨みを抱いて暮らすはめになる
この地方の風習では男は座り、女はかいがいしく働く、男は家を護り、女が働きに出かけるのだ、十猶八九ともなれば背中に薪を負って帰り、その薪を売って銭をかせぎ家族のものを養う
至老雙鬟只垂頸 老に至るも雙鬟只だ頸に垂れ
野花山葉銀釵並 野花山葉銀釵並ぶ
筋力登危集市門 筋力危ふきに登って市門に集り
死生射利兼鹽井 死生利を射て鹽井を兼ぬ
面妝首飾雜啼痕 面妝首飾啼痕を雜へ
地褊衣寒困石根 地褊にして衣寒く石根に困しむ
若道巫山女粗醜 若し巫山の女は粗醜なりと道(い)はば
何得此有昭君村 何ぞ此に昭君の村有るを得ん
年をとってもお下げ髪を首に垂らし、銀のかんざしとともに草花を飾りにつける、力を絞って危険な場所にも上り、そこで取ってきたものを市場に運ぶ、命がけで井戸の塩水を汲んだりもする
お化粧した顔には涙の後が混じり、土地は痩せて衣は粗末、岩の上で休息をとる、もしも巫山の女は醜いなどというものがあれば、王昭君のような美女を出した村があるのはどうしたことだ
キ州時代の杜甫は膨大な数の詩を作ったが、それらはおおむね自然を歌いながら穏やかな心境を吐露したものが多い。その中で珍しく激しい感情を盛り込んだものがある。
「負薪行」は、一生を働きずくめで報われることの少ないこの地方の女性を歌ったものだ。薪を背負いながら一生を終える彼女たちには、なんの楽しみもなく、また結婚して子どもを持つことのできないものも多い。
彼女たちが醜いのはこの土地の宿命だというものもいるが、それは間違っている、この土地は、かの王昭君を生んだ土地なのだ、彼女たちが醜くなったのは、過酷な運命のせいなのだ、そのように杜甫は歌って、薄幸な人々に同情を寄せている。
関連サイト: 杜甫:漢詩の注釈と解説
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