英字新聞 Japan Times が映画評論家として知られる佐藤忠男氏へのインタヴュー記事を掲載した。氏は、この四月に発足予定の日本映画大学の初代学長に就任することとなっており、日本映画のよき紹介者として、世界中の映画関係者に知られている人だ。
ジャパン・タイムズにはかつて、ドナルド・リチー氏が在籍して、在日アメリカ人向けに日本映画を紹介したりしていた。そのリチー氏が日本映画を分析する際に、よりどころのひとつに選んだのが佐藤氏の方法論だった。リチー氏はそんな佐藤氏の映画評論を英語に翻訳した最初の人でもある。それが機縁となって、佐藤氏の評論活動は世界中の映画愛好者の間で知られるようになった。
佐藤氏は1930年の生まれというから、もう80歳を過ぎている。それでも映画に対する情熱は若いものには負けないらしい、新たに大学という活躍の場を得て、日本の映画作りを若い世代につないでいきたいとの、情熱をたぎらせている。
筆者も佐藤氏の評論のいくつかを読んだことがある。それまでの映画批評といえば、いささか情動的な受容に偏った印象批評ともいうべきものが殆どだったのに、佐藤氏の評論は一本筋が通っていた。とくに小津安二郎を論じたものなど、作品の世界を同時代の社会と関連つけつつ、また映画作りを支えている小津の方法的態度といったものを、丹念に明らかにしていた。そうした分析的な態度が、西洋人の読者にも迎えられたわけなのだろう。
このインタヴューの中でとりわけ面白かったのは、日本のやくざ映画の問題性を、自身の著作「長谷川論」を援用しつつ論じたところだ。
やくざ映画というと、義理と人情、暴力崇拝といった側面から見る人が多いが、実は日本社会の構造的なあり方が色濃く反映されている。同時に1920年代のアメリカのギャング映画の影響を認めることもできる。単に映画といって軽く見るのではなく、縦軸横軸さまざまな視点から、映画と社会との相互浸透を読み取ることが必要だ、そういっていた。
昨今の映画批評といえば、東大総長を務めたこともある蓮見重彦氏がメジャーな活動をしているが、その蓮見氏の方法意識も佐藤氏に負うところが多いのではないか。
筆者などは、小津安二郎、溝口健二、黒澤明といった、佐藤氏がこだわり続けてきた映画作家を、自分なりに見直したいとも思っていた。そんな矢先にこのインタヴュー記事を読んで、いささかの感慨を覚えた次第だった。
佐藤忠男氏の『小津安二郎の芸術』(朝日選書全2巻)は、
小津研究の必読書ですね。
批判もそれなりにありますが、
それでも読むべき本です。