蘇軾の詞「漁父」(壺齋散人注)
(其一)
漁父飲 誰家去 漁父飲んで 誰が家にか去(ゆ)く
魚蟹一時分付 魚蟹 一時に分付す
酒無多少醉為期 酒は多少と無く 醉ふを期と為す
彼此 不論錢數 彼此 錢の數を論ぜず
漁父醉 簑衣舞 漁父醉ひて 簑衣にして舞ふ
醉裡卻尋歸路 醉裡にも 卻って歸路を尋ぬ
輕舟短棹任橫斜 輕舟短棹 橫斜するに任せ
醒後不知何處 醒後 何れの處なるを知らず
漁父は酒を飲みに誰の家に行くのか、とったばかりの魚やカニを持参して分け与える、酒の量の如何にかかわらず必ず酔う、かれこれ銭のことをいったりはしない
漁父は醉って蓑を着たまま舞う、酔ってはいても帰りの道は忘れぬ、小舟に掉さして揺れるにまかせ、覚めたときにはどこにいることやら
(其二)
漁父醒 春江午 漁父醒めて 春江午なり
夢斷落花飛絮 夢斷えて落花飛絮
酒醒還醉醉還醒 酒醒めては還た醉ひ 醉ひては還た醒む
一笑人間今古 一笑す 人間の今古
漁父笑 輕鷗舉 漁父笑ひて 輕鷗舉がる
漠漠一江風雨 漠漠たり 一江の風雨
江邊騎馬是官人 江邊の騎馬は是れ官人
借我孤舟南渡 我が孤舟を借りて南へ渡る
漁父が酔いから醒めると春江は昼下がり、夢はさめて落花飛絮、酔いが醒めればまた飲み、酔ってはまた醒める、人間の一生などつまらぬものだ
漁父が笑うとカモメが舞い上がる、果てしなくも河一面の風雨、岸辺にいる騎馬の人はお役人だ、わしの小舟で南へ行きたいとおっしゃる
常州に隠居生活を送りながら書いた詞、詞とはフシをつけて歌うためのものだ、繰り返しが多いのは、歌いやすいようにする工夫と思われる
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