リムパック(Rimpac=環太平洋合同演習)が例年のとおりハワイ付近の海域で始まったが、今年の演習にはちょっとした異変が起きているようだ。前回(2010年)の演習では参加国が14か国に急増して話題を呼んだところだが、今年は一気に22か国に増えた。それに加えて、前回はじめてオブザーバー資格を得たロシアが、今年は正式の参加国として招かれた。一方、環太平洋圏の大国中国は参加していない。
この演習はアメリカ海軍が主体になり、アメリカに招待された国のみが参加する資格を得る。だから、ロシアが招かれて、中国が招かれていない事態には、アメリカの政治的な意思が強く反映されていると考えてよい。
その政治的な意思とは、中国を軍事的に孤立させ、できれば封じ込めたいとする意思のことだ。
アメリカはいまや、中国を最大の軍事的ライバルと見ている。その中国が最近は、東シナ海や南シナ海に進出する動きを見せ、東アジア諸国に対して覇権主義的な傾向を強める一方、アメリカの航行の自由にとっても脅威になりつつある。一方ロシアの方は、共産主義体制の崩壊以降、アメリカにとっての軍事的脅威ではなくなりつつある。そんな事情が、ロシアを招き、中国を排除するといった動きにつながっているのだろう。
参加国には、日本、韓国のほか、インドネシア、マレーシア、タイ、オーストラリア、ニュージーランドなど、中国に顕在的・潜在的な脅威を感じている国が含まれているが、ロシアの場合はそうではない。第一ロシアは、リムパックと並行して、中国とも合同演習を行っており、今年も4月に大規模な合同軍事演習を実施したばかりだ。
それ故、ロシアにとってリムパックへの参加は、対中けん制と言う目的ではなく、あくまで軍事能力を向上させたいとする技術的な理由が大きいのだと考えられる。
ロシアのリムパック参加は、日本にとってはあまり面白くない事態だ。アメリカはロシアを巻き込んで中国包囲網を完成させたいのかもしらぬが、日本にとっては、ロシアと組んで中国を牽制しようという方向は、望ましいものではない。なぜなら、中国との間には尖閣諸島問題があるとはいえ、基本的には友好関係が成立し、それに基づいた経済的な相互依存関係も深まっている。
それに対して、ロシアとの間には未だ平和条約も締結できていないように、様々な政治的問題を抱え込んでおり、けっして友好関係にあるとは言えない。ロシアによる北方領土の侵略は、その象徴的なものだ。
それ故日本にとって大局的な選択肢は、中国との関係を深めてロシアを牽制することのほうであり、決してロシアと組んで中国をけん制することではない。
アメリカは、日本との長い同盟関係を通じて、アメリカの国益は日本の国益と背馳しない、あるいは日本は常にアメリカの言いなりになる国だ、と思い込んでいるフシがある。しかし、アメリカがもしもロシアと組んでまで中国を牽制し、それに日本も巻き込むつもりだというなら、それは日本の国益に反していると、日本の指導者たちはアメリカに言う必要がある。(写真奥手はリムパックに参加するロシアの巡洋艦アドミラル・パンチェリェーエフ:ロシア海軍のHPから)
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