李白の五言律詩「酒に對して賀監を憶ふ」(壺齋散人注)
四明有狂客 四明に狂客有り
風流賀季真 風流なる賀季真
長安一相見 長安に一たび相ひ見しとき
呼我謫仙人 我を謫仙人と呼ぶ
昔好杯中物 昔は杯中の物を好みしが
今爲松下塵 今は松下の塵と爲れり
金龜換酒處 金龜 酒に換へし處
卻憶涙沾巾 卻って憶へば涙巾を沾す
四明山に変わった男がいた、その名を風流なる賀季真といった、長安で初めて出会ったとき、私を謫仙人と呼んだものだ
昔は酒を好んだが、今では松下の塵となってしまった、金龜を売って酒を買ったあの場所、それを思い出すと涙が衣を潤すのだ
賀監とは賀知章のこと。高官を勤めながら破天荒な生き様で知られていた。李白がその賀知章と長安で出会った時、賀知章はすでに80歳を超えた老人であったが、李白を見て意気投合し、李白を謫仙人と呼んだ。
若い頃から奇行の多かった彼は、年をとると酒びたりの日々を送るようになった。そして743年の冬に病に倒れ数日の間意識を失った。意識を取り戻したとき、彼は道教の天国に旅をしてきたのだと話した。
744年、賀知章は道士となって故郷に戻ることを願い出、長楽坡で玄宗皇帝以下多くの高官たちの見送りを受けた。そのときに大勢の人々が別れの詩を作り、李白もそれに習ったが、儀礼を重んじた形式的なものだった。
賀知章は745年に高齢で死んだ。李白は彼の没後その人柄を偲んで、儀礼を抜きにしてこの詩を作った。しみじみとした友情と敬愛の情があふれた作品である。賀知章を思うの念がよほど強かったのだろう。