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前世と生まれ変わり:記憶モニタリングエラー


物質文明にどっぷりつかった人々の中にも、前世の記憶を有し、自分はナポレオンの生まれ変わりだなどと、信じている人はいるものだ。

心理学者には、このような荒唐無稽に聞こえる主張に、理解を示す者もいる。ユングの提唱した集合的無意識説は、個人の意識の底には、人間の集団的な記憶が沈殿していると、主張したものであった。この説を足がかりにすれば、ある個人の中に、人類の遠い昔の記憶が突然よみがえってくることも不思議ではない。

だが、大方の科学者たちは、集合的無意識のようなものは、精神的な産物が遺伝されうることを前提にしているといって、認めようとはしない。ある個人が前世の記憶と思いこんでいるものは、たんなる記憶のモニタリングエラーだと、そっけなく扱う学者が殆どだ。

それでも前世を信じる人が絶えないので、彼らの目を覚ましてやろうという老婆心からか、この記憶のモニタリングエラーのメカニズムについて、詳しく研究した学者がいる。 Belief in Reincarnation tied to Memory Errors By Melinda Wenner LiveScience

オランダの学者マールテン・ペータース Maarten Peters は、被験者に催眠術をかけて、彼らには前世があったと信じ込ませた上で、以下の実験をした。

まず、平凡な人の名前40人のリストを声を出して読ませる。2時間後、三種類の名前のリストを読ませる。1番目は先に読ませた40人の名前、2番目は実際に有名な人の名前、3番目はそれ以外の平凡な名前である。

この結果、前世を信じ込まされた被験者は、そうでない被験者に比較して、名前を取り違えるミスが二倍も多かった。とりわけ、最初に読んだリストの中の名前を、有名な人物の名前と誤って受け取るケースが多く見られた。これは、これらの人々には、記憶の源泉を正しく解釈する能力が弱いことを示しているのではないかと、ペータースはいう。

また、このような人々は、真実でないものを真実だと取り違える傾向が強いのではないかと、ペータースは推論している。彼らは、実際に起こったことと、単に示唆されたこととの間に、区別をつける能力が低いのではないか。

ペータースは更に、記憶を取り違える人々には、知覚に対して正常人以上に強く反応し、イメージが豊かで創造的な傾向も見られると考えている。彼らにとっては、実際の知覚と、自分の創造で作り上げたイメージとの間に、明確な線を引くことは難しいらしいのである。

別の言葉で言えば、感受性が並はずれているということだろうか。

ペータースはまた、彼らが「うつ」や睡眠障害にも陥りやすく、それが更に記憶モニタリングのエラーを誘うのだともいっている。


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