能は日本人が世界に誇りうる古典芸能である。既に14世紀には完成の域に達していたから、600年以上もの歴史を有する。
能は、古くは申楽の能といわれた。狂言とともに、能楽と称されるようになったのは、明治以降のことである。広い意味で、演劇の一種に分類されるが、歌舞伎や西洋の演劇に比較すると、物語よりも様式の美に重きを置く。
能を大まかに分析すると、謡曲と舞、囃子からなる。謡曲は、能の物語にあたる部分である。科白としての語りの部分と、歌の部分に分けられる。いずれも、一定のリズムや節回しに乗せて謡われる。
謡曲は、いってみれば、演劇の台本に相当するものであるが、物語と音楽とが程よく調和しているので、舞や囃子と切り離して、それ自体が鑑賞の対象にもなるし、また素人たちの稽古の遊びともなる。
徳川時代から明治にかけて、謡曲は風流人士の趣味のなかでも高雅なものとされた。成島柳北や夏目漱石も嗜んだとされる。谷崎潤一郎なども、謡曲を深く愛した。
筆者も、数年前から、観世流の謡曲を嗜み、仲間とともに謡い続けてきた。時には、謡蹟を訪ねて各地を旅行し、先々でゆかりの謡を楽しむこともある。
ここでは、能、謡曲の作品を取り上げ、その鑑賞のポイントを紹介したい。
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