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ヒトのクローン胚が現実化


アメリカ・カリフォルニア州の企業が、ヒトのクローン胚の形成に成功したというニュースを発表し、世界を騒がせている。不妊治療中の女性から取り出した卵子をもとに、その固有の細胞を取り除いた上で、実験者の皮膚から取り出した細胞を植え込んだ結果、成熟したクローン胚に成長したという。妊娠後五日目の胚に相当するそうだ。このまま女性の子宮におけば、実験者の遺伝子を受け継いだクローンベビーが生まれてくるだろう。

この結果を発表した企業は、クローン胚の形成はクローン人間を作ることが目的ではなく、それを培養してさまざまな臓器に成長させ、患者の治療に用いることが目的なのだとして、いまのところ、このクローン胚をもとに具体的な行為を起こそうとする予定はないといっているそうだ。

だがこの実験の成功をきっかけにして、これまで沈静化していたかに見えるクローン胚をめぐる議論が、再び盛んになるだろう。なにしろクローン人間の誕生が、絵空事でない可能性として、目の前に迫ってきているからだ。

クローン羊のドリーが誕生して以来、クローン技術は生命の創造という問題に大きな光を投げかけ、再生医療にとっても切り札となってきた。ほかの技術に比べれば、患者の遺伝子をそのまま受け継いだ臓器や組織が作られるのであるから、拒絶反応もなく、理想的なものを作り出せる可能性に富んでいたのである。

しかし、クローン技術は人の生命を人工的に作り出すわけであるから、他方では厳しい倫理的な疑問にもさらされてきた。そんなところから、一時はタブーに近い扱いを受けたのであるが、ブッシュ大統領がこの問題に煮えきらぬ態度をとったこともあって、批判の網を潜り抜けて実験に取り組むものもいないではなかった。今回はそんな実験の一つが実を結んだわけだが、その結果、くすぶっていた議論が再び沸騰するのは避けられない。

クローン胚を拒否する人たちはその論拠として、今までのように倫理的な問題を指摘するほかに、最近の医学の状況を持ち出している。京都大学の山中教授らがクローン胚を用いずに、皮膚や毛の細胞から万能細胞を作り出したことは、こうした批判に勢いを与えている。また、既存の心臓をもとにして、それに生きた細胞を埋め込み、死んだものを生き返らせるようなこともなされている。こうした医学の進歩をもとに、わざわざ倫理性に問題のある方法をとる必要はないというのが、彼らの主張だ。

これに対して、今回の実験を指導したウッド氏は、山中氏らの方法ではウィルスの細胞を介在させることからさまざまな問題を解決できておらず、また癌の危険性も高いと指摘した上で、自分らの技術がいかに安全かをPRしている。

だが、クローン胚をめぐっては、ウッド氏らの成功を世界中が祝福する状況ではない。アメリカ医薬品局も、ウッド氏の企業がこのままプロジェクトを進めるためには許可が必要だと声明を出したが、許可の行方については慎重きわまる態度をとっている。


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