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歯から目を再生する


LIVE SCIENCEのWeb上の記事を閲覧していたら、不思議な話にいきあたった。人間の歯、およびその周囲の組織や骨を用いて角膜を再生することができるというのである。学会用語で歯根部利用人工角膜 Osteo Odonto Keraprosthesis というのだそうだ。これまで、失われた角膜の機能を回復する方法は移植しかないと思われていたので、この技術が実用化されれば、画期的なことである。

アイルランド人のボブ・マクニコルは2年前に、爆発事故で両目に大怪我をした。工場での作業中、灼熱した液状アルミニウムが爆発し、それが両方の眼球を直撃したのだった。色々と治療を受けたがその甲斐なく、医師から生涯失明を宣告されて落ち込んでいたとき、この技術があることを知って受けてみることにした。

歯とその周辺のあごの骨は23歳になる息子が提供してくれた。まず骨を用いて右目の眼窩を形成し、そこに歯を埋め込み、更にその歯の中にあけた穴にレンズを組み込む。手術は前半が10時間、後半が5時間というハードなものだった。

記事は手術の内容について、これ以上詳細に記述していないので、それが果たしてどんなものか詳しいイメージを持つことが出来ないが、これによる視力の回復の可能性は65パーセント程度だという。

マクニコルの場合、手術は大成功だったようだ。彼は周囲のものが見えるようになったし、余り明らかな映像とはいえぬまでも、テレビの画面が見えるようにもなった。一生暗闇で生きることを覚悟していた彼にとっては、大いなる福音となったわけだ。

この技術がはじめて開発されたのは1960年代だという。それなのに今まで、あまり知られていなかったのは、成功の確率が低くて、採用される事例に乏しかったからだろう。それが一躍注目されるに至ったのは、技術が飛躍的に進化し、成功の確率が高まったからだろうか。

それにしても、医療技術の進歩には目を見張るものがある。再生医療の分野では、人工臓器の形成が視野に入ってきているほどだ。こうした技術の積み重ねが、今回のように歯を用いて目を再生するようなことも可能にしたのだろう。

「目には目を、歯には歯を」という言葉はあるが、「目には歯を」という言葉は耳にしたことがない。新しい世紀の人類の可能性を表現する言葉になるかもしれない。

〔参考〕Blind Irishman sees with the aid of son’s tooth in his eye.


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