日本の健康保険制度は、昭和30年代に国民皆保険が確立して以来、国民の健康を支える土台となってきた。それが半世紀を経過した今、危機的な状況に直面している。その背景には、少子高齢化という社会構造上の深刻な問題がある。
現在の健康保険制度は、大企業の従業員を対象にした組合健保、中小企業を対象にした協会健保(旧政管健保)、自営業者や無職の人を対象にした国保の三つの柱からなっている。そのうちでも、もっとも基盤が安定していた組合健保が急速に赤字に転落し、解散する事態が目立ってきているのだ。
その直接の原因は昨年四月に実施された高齢者医療制度の改革にある。これによって、それまで国保が負担していた高齢者向けの費用を、組合健保と協会健保も負担させられるようになった。その結果収支が急速に悪化し、存続の危機に直面する組合が続出したのだ。
組合健保が解散すると、その対象者は協会健保のほうに流れていく。ところが協会健保においても、深刻な事態は変わりがない。
中小企業は従業員にかかる保険掛け金の半分を負担する義務を負うが、この負担金を払いきれないで、負担金のがれをする例が目立ってきている。たとえば掛け金の基礎となると賃金の偽装であるとか、従業員を請け負い事業者に変換させて負担金支払い義務を逃れるといったやり方である。協会健保から締め出されると、その対象者は国保のほうに流れていく。
その国保だが、これは上述の改革以前には、高齢者医療にかかる費用のほとんどを負担していた。その大部分は税金である。国ではこの税負担の上昇を抑えるために、負担の一部を組合や協会に肩代わりさせようとしたわけであるが、肩代わりさせられた側に、それを飲み込むだけの余力がかけていたために、今回のような事態が生じたわけだ。
この趨勢が本格化すると、民間事業者をとりこんだ組合健保や協会健保がやせ細り、国保の受け持ちが増えていくことにつながる。国保は税金を投入する割合も多く、加入者の掛け金の額も高い、しかもサービスは相対的に劣る。だから国民全体の福祉という点では、組合健保や協会健保が健全に運営されていくことが望ましい。
国は国保の財政を救う目的で、国保の負担分を組合や協会に付回したつもりだろうが、その結果組合の多くが解散し、中小企業が負担金逃れに走るようでは、健康保険制度全体としてマイナスになるばかりだ。
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