鳩山総務大臣の最近の一連の言動が話題を呼んでいる。大きなテーマはふたつ、ひとつは旧郵政省所管の簡保の宿の処分を巡るもの、もひとつは東京中央郵便局の建て替えを巡るものだ。どちらも旧郵政省の所管事項を引き継いだ総務省の大臣としての発言である。
簡保の宿の処分については、全国にある施設を一括してオリックスに売却したいとする郵便事業会社の方針に大臣は待ったをかけてきた。売却価格があまりにも安すぎるという点と、一民間企業に一括して売り渡すことの不自然さを指摘したもので、それなりに筋の通った意見だ。大臣は施設ごとにもう少しきめの細かい処分方針を検討して、地域にとってもっと役立つような処分を考えるべきだといっている。
これに対して郵便事業会社側は、簡保の宿の売却は郵政民営化の流れの中で議論されてきたもので、分社化後の郵便事業各会社の経営健全化にとって不可欠なものだと主張している。簡保の宿はどれも赤字経営を続けており、これを抱えていられる余裕はないのだから、一刻も早く処分したいという理屈だ。
だが大臣は、会社側の言い分に一定の理解は示しながら、一括してオリックスに売り渡すことに、頑として同意しない。中には十分採算が成り立っているものもあり、それらを十把一絡げに売り渡すことには納得できないというのだ。そういう施設は、地元の地域で引き取っても成り立っていくのだから、地元にゆだねるのが自然ではないか。そういう理屈だ。
一方東京中央郵便局の建て替え問題については、この建物の持つ文化遺産としての歴史的な価値に言及して、それを安易に踏みにじる行為に待ったをかけている。
会社側は旧明治生命ビルや工業倶楽部ビルの建て替えを例に出して、既存の建築物をできるだけ復元する形で、それを超高層ビルに立て替えたいといっているが、大臣は会社側の計画では今の建物の歴史的な価値がほとんど損なわれてしまうといって、首を縦に振らない。
中央郵便局の立替問題については、大臣は、自分のいっていることは、あるいは間違っているかもしれないので、最終的な判断は国民の良識にゆだねたいと謙遜している。筆者などは、この建物のもつ文化的な価値について大きな関心を抱いているので、やはり大臣のいうとおり、その保存について、もっと工夫をしてもらいたいと考えているくちだ。
ところで鳩山大臣のこうした一連の態度について、郵政民営化の旗印を勤めてきた竹中平蔵元大臣が新聞紙上で厳しい批判をした。郵政民営化の流れに逆行するというのが、その主な理由である。
鳩山大臣は国会論戦の中で、この批判をどう受け止めるかと聞かれ、「怒るというより笑っちゃう」と答えて会場を沸かせた。先に麻生首相の発言を捉えて小泉元首相がいった言葉を、そのまま援用したからだ。
つい最近までだったら、こうした発言は政治的に大きな物議をかもしただろう。なにしろ小泉・竹中の構造改革路線は、自民党内では誰も反対できなかったからだ。
だが、このわずか半年ほどの間に、経済の流れも政治の流れも大きく変わってしまった。竹中元大臣が依拠するレーガノミクスの考え方は退場を迫られるに至っている。そんな中で、竹中元大臣の言い分は、もはや犬の遠吠えほどの迫力ももたない。鳩山大臣はこうした空気を敏感に嗅ぎ取って、こんな発言をしたのだろう。
日本の政治はいま、大きな曲がり角にある。この際、従来型の思考から抜けきれない政治家は、国のためにならぬばかりか、自民党のためにもなるまい。そうした中で鳩山大臣は、自民党の今の政治家としてはめずらしく、心意気を感じさせる。
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