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バリー・ボンズの歴史的ホームラン


2007年8月7日(火)夜、サンフランシスコ・ジャイアンツのスラッガー、バリー・ボンズ(43)が大リーグのホームラン記録を塗り替える歴史的な一発を放った。1976年にハンク・アーロンが記録した755本という数字を、31年ぶりに更新したのだ。

相手投手はワシントン・ナショナルズの左腕マイク・バクシック。第一、第二打席ともヒットを打っていたボンズは、5回の第三打席に立つと、フルカウントの末ファウルボールを打った。これで気持ちが吹っ切れたのか、新しいボールに変えられた第7球を、約130メートルある右中間のフェンス越しに、スタンドに深々と打ち込んだのである。

ボンズはダイアモンドをゆっくり一周すると両手を挙げてホームベースを踏み、駆け寄ってきたチームメイトや家族の祝福を受けた。スタンドにいるサンフランシスコのファンたちが熱狂したのはいうまでもない。土曜日にサンディエゴの球状で755号を放った際には、賞賛とブーイングの声が入り混じっていたが、ここはサンフランシスコ、ボンズが生まれ育った街だ。満員であふれかえった4万数千の観衆が、一斉にボンズを祝福した。

巨大スクリーンには、様々な人々による祝福のメッセージが流された。その中にはあのハンク・アーロンの声もあった。こういうシーンには記録に関係した人物が球状に駆けつけるというのが大リーグの慣習だ。イチローがシーズン最多安打の記録を更新したときに、それまでの記録保持者だったヘールマンの遺族がイチローを祝福しにやってきたことは、日本人の記憶にも新しいことだろう。

アーロンは、ボンズに付きまとう薬物疑惑を日頃から気にしていて、それで球状に足を運ばなかったとも、一部では言われた。この疑惑は今でもボンズのアキレス腱になっており、ことあるごとに再燃する。大リーグコミッショナーのバド・セリグなどは、ボンズが黒であることを疑ってやまないという。

ボンズはパイレーツ時代には、ホームランも打てる俊足の選手というイメージが強かった。それが30才を超えてからホームランを量産するようになり、36歳の年(2001年)には前人未到の73ホーマーを記録した。だがこの偉大な記録も、薬物疑惑のために曇りがちだった。それまで50本以上打ったことのない男が73本も打ったのは、ステロイドのおかげだと、陰口をたたかれたのである。

だが、ホームランの数が急に増えたのは、ボンズだけではない。1990年代の後半から、マグワイアー、ソーサ、グリフィー、ロドリゲスといったホームランバッターが輩出し、それまでの時代とは比較にならないほど、ホームランを量産した。その勢いは現在も続いていて、これを大ホームラン時代と表現する人もいる。

アーロンはスクリーンの中では、素直にボンズを祝福した。アーロンがルースの記録を破ったとき、黒人だという理由からその偉大さを認めたがらない人が多かった。また、アーロンは生涯ホームランの数では確かにルースを上回ったが、50本以上打ったシーズンは一度もなかったとして、その功績を貶める意見もあった。ボンズの記録は、薬物疑惑を別にすれば、実に偉大なのである。アーロンはだから、素直にそれを評価したのだろう。

ボンズに歴史的なホームランを打たれたバクシックは、臆することなくボンズに立ち向かっていった。その結果格好悪い役回りになっても悔いは残っていないそうだ。実はバクシックは、この瞬間を少年時代から夢見ていた。だがそれは、自分が歴史的なホームランを打つという夢であった。皮肉なことには、それをプレゼントする側に回ってしまったわけだ。

バクシックは試合後、ジャイアンツのロッカールームにボンズを訪ねた。祝福を受けたボンズは、まだ若いバクシックの今後の活躍を祈り、自分からサイン入りのバットをプレゼントした。それには「マイクに、神の祝福を」と書かれていたという。

ボールとバットに命をかけた男たちの、さわやかな友情を垣間見るようである。つまらぬ疑惑で、この友情の曇らぬことを祈る。


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