陶淵明の「詠貧士七首」は、古の貧士にことよせて、己の生き方とそこに貫く矜持を歌った作品群だ。貧士とは清貧と孤独に甘んじつつ、世の流れに流されず、あくまでも己の美学を追及した人々である。清廉潔白の士と言い換えてもよい。陶淵明はそうした人々の生き方に己の生き方を重ねることによって、汚濁にまみれた世に生きざるを得なかった、無念のようなものを昇華したかったのだと思われる。
ここでは其一「萬族各有託」を取り上げてみたい。
詠貧士其一
萬族各有託 萬族各おの託する有るに
孤雲獨無依 孤雲獨り依る無し
曖曖空中滅 曖曖として空中に滅し
何時見餘暉 何れの時にか餘暉を見はさん
朝霞開宿霧 朝霞宿霧を開き
衆鳥相與飛 衆鳥相ひ與に飛ぶ
遲遲出林翮 遲遲として林を出でし翮
未夕復來歸 未だ夕ならざるに復た來り歸る
量力守故轍 力を量りて故轍を守る
豈不寒與飢 豈に寒と飢とあらざらんや
知音苟不存 知音苟しくも存せずんば
已矣何所悲 已んぬるかな何の悲しむ所ぞ
どんなものでも頼りとするものがいるのに、孤雲は一人ぼっちでよるべがない、ぼんやりと空中に消え、再び姿を見せることはない
朝霞が夜霧を吹き払い、鳥たちがいっせいに飛び立つ、その中でぐずぐずと一人林を飛び立った鳥は、夕べを前にしてもとの所に帰ってきた
自分の力を考えてもとのままに生きようとするのだろう、だが一人では飢えや寒さを凌ぐのは厳しいだろう、仲間がいないというのは辛いことだ、だがいかんともすることが出来ぬ、悲しんでばかりいられないのだ
一首目のこの詩は、貧士を孤独な鳥にたとえ、さらにその姿に己の姿を重ね合わせたものであろう。