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シェイクスピアのソネット129 The expense of spirit


シェイクスピアのソネット129 The expense of spirit in a waste of shame(壺齋散人訳)

  恥ずべき放埓のうちに精神を費消すること
  それが淫欲というもの この欲望を遂げるために
  偽証 殺人 流血などの罪もいとわず
  野蛮で過激で卑猥で残忍 とても信用できぬ

  淫欲は満たされるや汚らわしく思えるもの
  理屈を超えて追い求めるが 満足するや
  理屈を超えて嫌悪される それは飲み込まれた餌が
  飲み込んだものを狂わせるのと同じこと

  狂ったように追い求め 手に入れても狂乱の極み
  した後でも 最中でも これからという時もそうだ
  性交には至福が伴うが 終わってしまえば苦痛が残る
  前方には喜びが見えるが 後方には一抹の夢
    こんなことは誰でも知っている だが誰も
    地獄へと通じている目前の天国を避ける術を知らぬのだ


人間の肉欲を歌ったこの詩はシェイクスピアのソネットのなかでもとりわけ有名なもののひとつだ。

この詩の中の肉欲は、おおかなものというより、ペシミズムに彩られている。それは獣の本能のように人間を駆り立てるが、あとには悔恨しか残さない。

シェイクスピアは何故セックスを否定的に受け止めたか。青年に対するプラトニックな愛に比較して、ダークレディに対するこのあからさまな肉欲の否定は著しいコントラストをなしている。シェイクスピアはこの詩と同じ時期に書いた戯曲「リア王」や「オセロ」においても、人間の欲望の儚さを執拗に描いていたから、個人的にもデプレッションのような状態にあったのかもしれない。


SONNET 129 –William Shakespeare

  The expense of spirit in a waste of shame
  Is lust in action; and till action, lust
  Is perjured, murderous, bloody, full of blame,
  Savage, extreme, rude, cruel, not to trust,

  Enjoy'd no sooner but despised straight,
  Past reason hunted, and no sooner had
  Past reason hated, as a swallow'd bait
  On purpose laid to make the taker mad;

  Mad in pursuit and in possession so;
  Had, having, and in quest to have, extreme;
  A bliss in proof, and proved, a very woe;
  Before, a joy proposed; behind, a dream.
    All this the world well knows; yet none knows well
    To shun the heaven that leads men to this hell.

Expense:費やすこと,expenditure、lust:肉欲、till action:欲望を達成するまでは、Enjoy'd no sooner but despised straight:As soon as it is experienced hated immediately thereafter、Past reason:理性の力を超えて、no sooner had:as soon as enjoyed、


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