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貧困ビジネス


貧困ビジネスという言葉があるそうだ。誰が作ったかは知らぬが、NHKがこの言葉を使って、現代日本社会に巣食う病理現象を描き出していた。

貧困ビジネスといっても、貧困なビジネスあるいは貧乏人が行なうビジネスという意味ではない。貧困にあえぐ人たちをターゲットにして、彼らからなけなしの金をまきあげようとするビジネスのことだ。

何故貧乏人を相手にビジネスが成立するのか、普通人の感覚ではピンと来ないかもしれない。しかしそこは智恵の使いどころらしい。立場の弱い貧乏人を相手に違法行為すれすれのことを仕掛けることで、結構実入りのよい商売が成り立つようなのだ。

そんな商売の例としてNHKが紹介していたのは、ネットカフェとゼロゼロ物件といわれるものを売り物にした借家経営のあり方、そして生活保護費の上前をはねるブローカーたちだ。

ネットカフェとは漫画やインターネットを個室で見せる商売のことだ。だからもともとは娯楽産業であったはずだが、それがいつの間にか簡易宿泊所の機能を持つものが増えた。長期利用者に安い料金設定をして利用しやすくし、しかも住民登録までできることを誘い文句にして、客の数を増やしてきた。

料金が安いといっても月額に換算すれば6万円前後にもなり、そのほか洗濯代やらシャワー代やらを別途徴収するから、利用者がネットカフェに支払う金は月七、八万前後に上る。長い目で見れば、負担面では普通の借家と異ならないにかかわらず、サービスは極端に悪い。それでも利用者が減らないのは、住民登録ができる便利さがあるからだ。

業者は本来なら旅館として登録しなければならないところを、旅館業法の負担を免れるためにこのような形態を選択しているふしがある。一方利用する側からすれば、ネットカフェは、ホームレスに転落する寸前の最後のよりどころとなっている。

ゼロゼロ物件とは敷金も礼金も要らない借家のことだ。業者はこれを売り物にして部屋を貸すが、借りたほうは金のない人たちだから、滞納はよく起きる。業者はそこをねらって違約金を取り立てる。取立てのやり方はやくざまがいもので、利用者は恐怖感を感じながらその支払いを余儀なくされる。

日本の借家法では、家賃が少し滞納したぐらいで違約金を取ることは許されていない。その網を潜るために業者は、部屋を貸すのではなく鍵を貸すのだなどと屁理屈をひねり、違法な取立てを行なっている。入居者がそれでも自分から出ていかないのは、引越しのための費用がないからだ。

生活保護費のピンはねについては、今に始まったことではない。大都市当局がホームレス対策の一環として生活保護制度の活用を実施し始めたのに目をつけて、路上のホームレスに生活保護を受けさせ、その上前をはねようとするものだ。

それにしても、困窮にあえぐ貧困者を相手に、こんなビジネスが流行るようになったのはどうしたわけか。

やはり世の中に貧困者の数が大幅に増え、一人当たりのマージンは小さくても、量をこなせばビジネスとしてペイできるようになったからだろう。いまの日本では、年収200万円以下の低所得層は1000万人にのぼるという。彼等はその日暮らしに追われて、明日への蓄えなどは到底望めない。だから何かあったときには、少しくらい高い利息を払っても金を借りざるを得ないし、きちんとした住居にあてるべき金の余裕がない場合も多い。

貧困ビジネスなるものは、NHKが紹介していたダーティな部分にはとどまっていない。消費者金融などはそのよい例だ。出資法が改正されてかつてのような法外な利息は取れなくなったといっても、18パーセントもの利息を平気で取っている。しかも最近は大手の消費者金融に大銀行がくっついて、安い金利で調達した資金をもとに、貧乏人から高い金利を巻き上げている次第だ。

格差社会日本が行き着いた情けない姿が、ここに凝縮されているといえよう。


関連リンク:日本の政治と社会

  • ワーキングプア:平成の経済難民

  • 暗躍する闇金融






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