ツアーコンダクターといえば、かつては人気のある職種だった。筆者の友人にも大手旅行会社のツアーコンダクターを勤めていた者がいて、若い頃には一年中海外を飛び回り、変化に富んだ生活を送っていた。時にハードなスケジュールに忙しい思いをすることもあるが、なかなかやりがいのある仕事だったようだ。
この友人は正規社員なので、筆者はツアーコンダクターという人たちの大部分は旅行会社の正社員なのだろうと、今まで勝手に思い込んできた。ところが実際には、現在働いているツアーコンダクターのうち9割もの人々が、日当で雇われている契約社員なのだということを最近になって知った。表向きの華やかさとはうらはらに、彼らの労働環境はきわめて劣悪だというのである。
その様子を先日NHKの報道番組が紹介していた。それによれば、ツアーコンダクターの労働時間は、一日あたり14時間から18時間に上る。これに対して、賃金のほうは、定額の日当制である。それも大した額ではなく、彼らの平均年収は230万ほどに過ぎないという。
過酷な労働と低賃金が蔓延する、悲惨な職域を形成しているようなのである。ツアーコンダクターたちは、一人ひとり孤立した状態に置かれ、これまでは自分たちの待遇改善について、声を上げることが出来にくい状態にあった。その結果こんな状態に追いやられてきたらしい。
そんなツアーコンダクターたちの世界にも、今年の春闘では、労働組合を結成して会社側と交渉するケースが出始めてきたという。
彼らの要求は、身分の正規化、過酷な労働環境の改善、超過労働に対して割り増し賃金を支払ってもらうことだ。ところが会社側はなかなか良い返事をしない。日雇制はこの業界では確固とした慣行となっており、それを改めて彼らを正規社員にする余裕はないというのが第一の理由であり、また旅行先の勤務については、いちいち把握することが出来ないので、どこから先が超過勤務なのか特定することが困難だ、したがって一括した日当制がこの職種には適合しているというのが、第二の理由だ。
それにしても、こんな劣悪な労働環境が何故まかり通っているのか。専門家たちは業界内部の過当競争に原因があると見ている。少しでもコストを下げようとする圧力が、ツアーコンダクターの人件費の削減に拍車をかけているというのだ。
つまり弱い立場の労働者に、競争のツケが回されているわけである。こうした現象は、ツアーコンダクターの場合に限らず、現在の日本の労働市場では至る所に見られる。長時間労働と低賃金が蔓延し、いくら働いてもまともな所得が得られない、いわゆるワーキングプアが大量に生み出されている。
夢があるべき職業まで、夢が奪われてしまうとしたら、若者たちは何を目指して進んだらよいのか、いささか考えさせられるところだ。
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