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東京海底谷のゴブリン・シャーク


東京湾の入り口付近が深い海底の谷になっていて、そこに様々な深海魚が生息しており、とりわけサメの仲間は40種類を数えるということだ。世界の海の中でこんなにも多くの種類のサメが集中していること自体珍しいそうだが、それが大都会の目と鼻の先で展開しているというのも、非常に珍しい。

この海底の谷は東京海底谷と称され、今から12億年前から2億年前にかけて形成されたそうだ。日本列島がアジア大陸とつながっていた頃、このあたりは大河の河口にあたっていて、水の浸食作用によって深い谷が形成されていた。それが海面の上昇に伴って水没し、海底の谷になったものだ。現在の東京湾もその河口部の名残である。

この海底谷に生息しているサメの中でゴブリン・シャークというものは、別名をミツモリザメというように、日本人によって発見されたものだが、これまで10数体しか発見例がない珍しいサメだった。ゴブリン(悪魔)という名のとおり奇怪千万な表情をしている。一億年ほど前に出現して以来、ほとんど姿を変えていないだろうと推測されている。

このサメが近年東京海底谷だけで140体以上も発見され、俄然世界中の研究者の注目を集めた。

何故東京海底谷にかくも多くのゴブリン・シャークが生息しているのか。その理由をNHKの報道番組が追及していた。

それによれば、この谷は東京湾の入り口付近から急激に深く刻み込まれ、外洋に向かって広がっている。東京湾には多くの川が注ぎこみ、それが大量の栄養分を運んでくる。その栄養分が谷に流れ込み、谷は深海にもかかわらず、生物が生息するのに好都合な条件を作り出している。この結果、他の海では考えられぬほど、多彩な生物が生息し、サメの仲間も多く生きていられる、ということらしい。

ゴブリン・シャークは比較的大型のサメで、この海域では食物連鎖の頂点に立っている。普通食物連鎖の頂点に立つものが栄えている海は、豊かで安定した海であることを意味する。東京海底谷は、深海にかかわらず、地勢上の条件が幸いして豊かな海を作り出しているのだ。

東京海底谷に多くのサメが生息していることを明らかにしたのは、東京湾で漁をしている一人の猟師だった。NHKはこの猟師の協力を得て、一年間に渡り海底谷の撮影を続けた。その結果ゴブリン・シャークについて、さまざまなことがわかってきた。

このサメは、角のように突き出した頭の先端の下部に、ほかのサメと同じような口をつけている。捕食活動をするときには、この口のなかから、あご状のものが飛び出てきて、餌に食いつく仕掛けだ。この顎は非常に大きいもので、それが飛び出たときのゴブリン・シャークの姿は、角の下に巨大な口がくっついているように見える。それが余りにもグロテスクなので、悪魔を連想させたのであろう。

ところでサメといえば、南の暖かい海に生息しているというイメージが強い。それが東京湾の中の、それこそ大都会の目と鼻の先にいることは驚きに耐えることだ。映画「ジョーズ」のように、これが突如水面に現れて人間を襲うことはないのだろうか。

番組から伺う限りは、このサメは活動が鈍く、しかも深海が好きなようなので、その可能性はゼロに近いと考えてよいだろう。


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