牛馬の糞が燃料になるこことは広く知られている。草原の民の中には、家畜の糞を乾燥させて、それを主要な燃料として使っているものもある。家畜の糞で可能なことが、人間の排泄物でもできないわけがない。実際人間の排泄物の中にはメタン成分が豊富に含まれ、それを燃料に利用することは、大いに可能なのだ。
アメリカ・サンアントニオ市の下水道当局はこのたび、下水道を通じて大量に集まった人間の排泄物を、エネルギー資源に転化するプラントを立ち上げた。下水成分のうちから固形物つまり人間の糞を取り出し、それからメタンガスを抽出する、そしてそれを原料にして発電施設で電力に変え、電力会社に売却するというものである。
サンアントニオ市では、人間の排泄物からバイオソリッドと呼ばれる固形成分が年間14万トン集まり、そこから取れるメタンガスは一日当たり150万立方フィートにのぼるという。プラントには余裕があるので、市では他の事業者から依頼があれば、彼らが持ち込む排泄物も併せて処理したいといっている。
これまで清掃工場が家庭ごみから発電していた例はあるが、下水道事業者が排泄物をもとに発電していた例はあまりない。あったとしても、その用途は下水処理プラントのエネルギー源に当てられていた程度で、商業ベースで発電しようというのは、サンアントニオ市が初めてらしい。
サンアントニオ市の試みがユニークなことは、これのみにとどまらない。市では下水成分を徹底的に分別し、水分は灌漑用水に、メタンガスを取り除いた後の固形分はコンポストに加工して、再利用の徹底を図っている。究極の資源リサイクルといえる。
サンアントニオ市の試みは、日本各都市の下水道事業者にも参考になるに違いない。
日本の下水道事業者もこれまで、下水の再利用を行わなかったわけではない。下水処理水から中水を作って水の循環に役立てたり、下水スラッジから建設資材を生産するといった試みが主なものだ。しかし中水はあまり普及せず、下水スラッジ製品もいまひとつ市場に歓迎されていない。
こうしたわけで日本では、こと下水に関しては、まだまだ再利用を考える余地がある。
関連リンク: 日々雑感