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「もったいない」から友愛の輪:フードバンク「セカンドハーベスト」の挑戦


フードバンクとは、さまざまな事情で廃棄せざるをえない食料を受け集め、それをホームレスや母子家庭などの生活困窮者に無料で提供している団体を指す。アメリカでは1960代からボランティア活動として始まり、今では200もの団体が活躍しているそうだ。

この活動を日本に持ち込んだのはチャールズ・マクジルトンというアメリカ人。2000年に活動を始めたばかりだが、次第に認知度が高まり、今では外資系の企業などから年間800トンもの食料を受け集め、山谷地区を中心に東京各地の慈善団体に配り続けるまでになったそうだ。その活動を担う団体の名はセカンドハーベスト。色々な事情で市場から消えざるを得なかった食料に、新たな収穫の喜びを吹き込むという意味だ。

今日の日本は飽食社会といわれるように、市場には食料が溢れている。その一方で、賞味期限が切れそうになったり、商品の一部に傷がついたりして、毎日膨大な量の食料が市場から撤去されている。こうした食料の大部分はこれまで、殆どが家畜の飼料にされたり廃棄されたりしてきた。

家畜の飼料にするのなら、資源の有効活用という点でまだ納得できるところもあるが、わざわざコストをかけて廃棄するというのでは、膨大な無駄というほかはない。それを貧困にあえいでいる人たちに届けられれば、さまざまな意味で有意義なことに違いない。

だが日本では、こうした活動はこれまで社会的な認知が受けづらかった。いかに安全でまだまだ賞味に耐えるものであっても、一旦捨てられるべき運命にあった食品を人の口に運ぶのは、贈る人、受け取る人双方に抵抗感のようなものが働いたからだ。日本人には、どんなに落ちぶれても、捨てられたものを口にするほど落ちぶれてはいない、こんなプライドがある。

だからセカンドハーベストが活動を開始した当初は、食品を集めるのに苦労したそうだ。スタッフが食品企業を廻り、趣旨を説明して協力を願っても、気持ちよく受け入れてくれるものは皆無に近かった。しかし粘り強く続けているうちに、少しづつ協力する企業が現れてきた。それは善意の中身が社会的に受け入れられるものであることを、企業が認識した結果だったのだろう。本来かかるべき廃棄処理費用が節約できることも追い風となったに違いない。

日本語には「もったいない」という言葉がある。まだ十分に使え、まだおいしく食べられるのに、それを無造作に捨ててしまうことを戒める言葉だ。だがこの「もったいない」の気持ちが他者に向けられるとき、そこには複雑な心理が働く。自分自身のことなら「もったいない」ですむことでも、不要のものを他人に譲るときには傲慢に変わるのではないか、そんな気持ちがどうしても働く。

だが他者を自分にとってかけがえのない存在だと考えれば、そんな気持ちは働く余地はないだろう。友愛の感情が、「もったいない」の思いを尊厳で包むのではないか。

セカンドハーベストは浅草に本拠を置き、山谷の慈善施設やホームレスへの炊き出しをしている団体に食料を配り続けている。同じような活動をしている団体はまだ少ないが、各地の団体の間では相互のネットワークもできつつあるという。

こうした団体が増えることは、社会の安全ネットワーク作りの上で必要なことだ。とりわけ今日のように、不況が深刻化してホームレスに陥る人びとが急増しているような状態では、なにもかも行政に頼ることには限界がある。やはり社会を底辺で支えるこのような団体が、しっかりと根を下ろせるような風土が求められる。

マクジルトン氏は、「可哀そうだから恵むのではない、生きるために必要な道具を差し出しているのだ」といっている。そこには人間として尊厳をもって付き合うという思想が働いている。慈善ではなく、助け合いの視点が大事なのだと感じた。


関連リンク:日本の政治と社会

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