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政治勢力化するアジアの仏教


アジア諸国で仏教の社会的な影響力が急速に拡大しているそうだ。仏教徒の数の増加についていうと、中国では信仰の自由が一定程度保障されるようになった結果、いまや1億人に達するという。インドでは、仏教発祥の地にかかわらず、2001年にはわずか800万人に過ぎなかったものが、一気に3500万人に増えた。台湾も同じ時期に、550万人から800万人に増加するといった具合だ。

仏教徒の数が増えるのに並行するかのように、その活動振りも活発になってきた。仏教といえば、イズラムやキリスト教と異なり、徹底した平和主義と、現世的価値の軽蔑を特徴としており、したがって伝統的に、政治的な運動とは一線を画してきたのだが、それが一転して、アジア各国で政治的な動きを見せるようになってきたのである。

そのもっとも成功している例はインドだ。インドではいまだに古いカーストの遺制が厳然として残っており、国民の間に根深い差別意識がある。中でも最下層のダリト(不可触民と呼ばれて来た)は35000万人にのぼるが、それらの人たちが人間らしい生き方を求めて仏教に大挙改宗する動きを見せている。彼らはまた、政党を結成して、自分たちの権利の拡大を追及し始めた。インド最大の州ウッタル・プラデシュでは、BSPという仏教系の政党が議会の過半数を握るにいたり、その党首マヤワティ・クマリはカリスマ的な影響力を行使して、将来のインドの首相になるだろうとまで言われている。

中国の仏教徒は今のところ目立った政治的動きは見せていないが、精神的にはチベットの仏教と深く結びついているといわれる。北京の指導者たちは、今や膨大な数になった仏教徒たちが、何かのはずみで政治化しないようにと、目を光らしているにちがいない。

台湾では、「慈済」 Tsu Chi という新興の仏教団体が急速に信者数を拡大し、いまや世界中に1000万人の信者を持つといわれる。この団体は名前の如く慈善活動に熱心で、インド洋の津波の被害者や、アメリカのハリケーンの被災者たちを援助することを通じて、多くの信者を獲得しているそうだ。

これに対して、これまでも仏教が盛んであった東南アジアのいくつかの国では、彼らの政治的な実力行使が目立ってきている。 

タイでは2年前に、仏教徒たちがタクシン政権の腐敗と堕落に怒り、ついに実力を行使して政府を転覆させた。スリランカでは今までも仏教徒は多数派にかかわらず、政治的にはヒンドゥー・タミルに抑圧されてきたが、最近ではこうした現状に異義を唱え、過激化する動きが出てきている。

ビルマなど近隣の国でも、仏教徒は政治化する動きを強めている。彼等の直接の矛先は、政府の無能であったり、社会の腐敗であったりするが、大きな目でみると、国を仏教的原理に基づいて立て直したいという願望が底にある。ある種の仏教原理主義である。

専門家の中には、この仏教原理主義ともいうべきものが、過激化する余りに、イスラムやキリスト教の原理主義に似通うようになることを愁えている。仏教はもともと平和を旨とする宗教などであるから、彼らが暴力的になるのは、相応しい姿ではないというのだ。


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