ナルシスは語る Narcisse Parle :ポール・ヴァレリー
ナルシスは語る Narcisse Parle (ポール・ヴァレリーの詩:壺齋散人訳)
兄弟たちよ 悲しき百合よ お前たちの裸体に
求められたわたしは 美に煩悶する
そしてニンフよ 泉の精よ お前に向かって
わたしは虚ろな涙を純粋の沈黙に捧げるのだ
ナルシスは語る Narcisse Parle (ポール・ヴァレリーの詩:壺齋散人訳)
兄弟たちよ 悲しき百合よ お前たちの裸体に
求められたわたしは 美に煩悶する
そしてニンフよ 泉の精よ お前に向かって
わたしは虚ろな涙を純粋の沈黙に捧げるのだ
若きパルク La Jeune Parque (ポール・ヴァレリーの詩:壺齋散人訳)
風も吹かないのに このすすり泣くような音は何でしょう?
この時刻 ひっそりと 星空の下で泣くのは誰?
泣こうとするわたしの傍近くで
蜜蜂 L'Abeille (ポール・ヴァレリーの詩集「魅惑」から:壺齋散人訳)
お前の針が 蜜蜂よ
どんなに繊細で どんなに致命的でも
わたしはただ 薄紗のような眠りで
お前の一撃を受け止めるだけだろう
歩み Les pas (ポール・ヴァレリーの詩集「魅惑」から:壺齋散人訳)
お前の歩みが 我が沈黙の子どもたちよ
厳かに また緩やかに床を踏んで
用心深いわたしの寝床の方へと
静かに 冷ややかな音をたてて近づいてくる
ポール・ヴァレリーの詩「眠る女」 La Dormeuse (壺齋散人訳)
どんな秘密を心の中で燃やしているのか?
わたしの女友達 優しい顔で花の香りを呼吸する人よ
どんなものを食べたおかげで その体内の温かみから
眠れる女のこの輝きが生まれてくるのか?
ポール・ヴァレリーの詩「風の精」 Le Sylphe (壺齋散人訳)
見えず 知られず
わたしは香り
生き生きと また消え消えと
風に乗ってやってきます
ポール・ヴァレリーの詩「柘榴 」Les Grenades (壺齋散人訳)
熟した実の過剰さに負けて
開きかけた硬い柘榴
あたかも賢者の額から
思想がはじき出たかのようだ
ポール・ヴァレリーの詩「消えうせたワイン」Le vin perdu (壺齋散人訳)
いつだったか またどこだったか
わたしは大海の中に向けて
虚無への捧げもののように
少しだが貴重なワインを注いだ
ランボーの散文詩集「イリュミナション」が始めて発表されたのは1886年、雑誌「ヴォーグ」紙上においてである。そのときランボーはまだアフリカで生きていたが、この発表に関与した形跡はない。これを編集したのはグスタフ・カーンとフェリックス・フェネアンであるが、彼等は何らかのルートで手に入れたランボーの散文詩篇に加え、1872年代に書かれた韻文12編も一緒に発表した。
洪水の後 Après le deluge (ランボー「イリュミナション」から:壺齋散人訳)
洪水の記憶が覚めやらぬ頃
一匹の兎がイワオウギとツリガネ草の繁みの中に立ち止まり
くもの巣の合間を通して虹に祈りを捧げた
ランボー「イリュミナション」から「寓話」 Conteを読む。(壺齋散人訳)
王子には ただ闇雲に寛大であろうとしていたことが
なにか馬鹿げたことのように思えた。
彼はすばらしい愛の革命を予見したのだった。
そして女たちには飾り立てた媚以上のものが
期待できるはずだと思った。
彼は真実が知りたかった
本質的な欲望と充足のときを。
それが異常な信念であろうとなかろうと、知りたかったのだ。
少なくともそのための人間としての能力は十分に持っていた。
ランボー「イリュミナション」から「生活」Vies (壺齋散人訳)
おお 聖地の大道 寺院のテラスよ!
俺に予言を授けてくれたあのバラモン僧はどうしただろうか?
あの頃、あの場所については、俺にはまだ老女たちの姿が思い浮かぶのだ。
俺は覚えている 銀色の太陽の時間が川のあたりを流れ、
野原の中であいつの手が俺の肩にかかり、
二人して爪先立ちながら胡椒畑で抱き合ったことを。
- 赤い鳩が俺の思考の周囲を飛び回る
- 俺はここに追放されてきて、
文芸史上の傑作劇を演じるための舞台をこしらえてみた。
諸君には前代未聞のすばらしい劇をお見せしよう。
諸君がそこからどんな宝物を引き出すか、俺は見届けよう。
結果はよくわかっている。
俺の叡智は、カオスのように侮られるが、
諸君に取り付いている無感覚に比べれば、俺の無内容などけちなものだ。
ランボーの「イリュミナション」から「出発」 Départ (壺齋散人訳)
見飽きた いたるところにわだかまっている幻影
もう沢山だ 昼も夜も一日中いつでも街の喧騒だ
十分わかっている 人生の節目 ―おお喧騒よ 幻影よ!
新たな情愛と騒音に向けて出発だ!
王権 Royauté :ランボー「イリュミナション」から(壺齋散人訳)
ある晴れた朝 善良な市民たちに取り囲まれ
身なりのよい男と女が 広場に向かって叫んでいた
「諸君 わしはこれを女王にしたいのじゃ!」
「わたしは女王様になりたいの!」
女はこう叫んで身を震わした
男は啓示と試練について 友人たちに語った
二人は身を寄せ合って悶え苦しんだ
実際その朝 二人は王と女王だった
カーマインの釣り花が家々の窓を飾り
午後には 二人して棕櫚の庭園から進み出てきたのだった
ある理性に A une raison (ランボー「イリュミナション」から:壺齋散人訳)
お前の指が太鼓をひと叩きすると
あらゆる音が飛び出し 新しいハーモニーが生じる
お前がひと歩きすると 新兵たちの行進のように勇ましい
お前が頭の向きを変えると 新しい愛が生まれる
お前が頭をもとに戻すと そこにも新しい愛が生まれる
「運命を変えよう 疫病を克服してやり直そう」
子どもたちがそうお前に歌う
「肝心なのは運と意欲さ」
皆はお前にそういう
時が熟せば どこへでも行くさ
街 Ville (ランボー「イリュミナション」から:壺齋散人訳)
俺は大都市と称されるこの街の一時的な滞在者だし
したがっていささかも不平があるわけではない
家具は変な趣味でごたごた飾られてはいず
家の外観は都市計画に従って皆一様だ
ランボーの「イリュミナション」から、ヴァガボンド Vagabonds (壺齋散人訳)
憐れな兄貴よ!こいつのおかげでどれほど眠れぬ夜を過ごしたことか!
「俺は人生にまじめに取り組んでこなかった。
俺は人生を甘く見ていた。
こんなことをしていたら人生から追放され、奴隷の境遇に陥ってしまう。」
兄貴は俺を運がない奴だといい、異常なほど純真だという。
そういってあやしい理屈を付け加えるのだ。
夜明け Aube (ランボー「イリュミナション」から:壺齋散人訳)
俺は夏の夜明けを抱いた。
宮殿の前には、まだ動いているものは何もなかった。
水面は動かず
森の小道には深い影が落ちていた。
俺は熱い息を弾ませながら、歩いた。
宝石たちが顔を見合わせ、翼が音もなく舞い上がった。
ランボーの「イリュミナション」から「花々」 Fleurs (壺齋散人訳)
黄金の台の上から
- 絹の紐や、灰色のガーゼや、緑のビロード
ブロンズの太陽のように黒ずんだクリスタルに囲まれ
- 俺は、銀や目や髪の透かし模様をつけた絨毯の上で
一本のジギタリスが開くのを見た
ランボー「イリュミナション」から、「海景」 Marine (壺齋散人訳)
銀と胴でできた戦車
鋼鉄と銀でできた船のへさきが
波を打って進み
バラの切り株を根こそぎにする
大地の潮流
引き潮の巨大なわだちが
うねりながら東へと広がり
林立する木立
防波堤に向けて押し寄せる
そしてその先端には光の渦が逆巻くのだ