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らりるれろ(呂律が廻らぬ)


「ら」行の音を、現代の大方の日本人は、舌を上の歯茎にこすりつけるようにして発音しているにちがいない。なかには、「べらんめー言葉」といって、巻き舌で発音する仕方もあるようだが、この場合にも、「ら」についてはあるが、「る」や「れ」や「ろ」を巻き舌で発音する人は多くないと思う。それも東京言葉など、限られた地域の言葉でのみ見られるものだと思う。

「ら」行の音は、日本人が古代から用いてきたものである。日本語の動詞には、「る」で終る言葉が多く、それの活用として、「ら」行が用いられた。しかし、動詞以外で「ら」行が用いられることは多くはなく、まして、「ら」行が語頭に来る言葉は、古代の日本語にはなかったのである。(これは、古代の朝鮮語をはじめ、ウラルアルタイ系言語に共通することだという)

今の時代でも、「ら」行が語頭に来る言葉はそう多くはない。であるから、「尻取り」ゲームに勝つコツは、「ら」行で終る言葉を返すことなのである。

「ら」行の音が語頭にも用いられるようになり、また使用頻度も高くなった背景には、漢語の影響がある。漢語には「ら」行音の文字が多く含まれていたため、その民衆への浸透にともなって、「ら」行音が日本語の中に定着していったものと思われる。

また、西洋語が日本に入ってくると、外来語に含まれる形で、「ら」行音はいっそう日本語の中に広がった。しかし、日本語の伝統の中では、どうしても比重が低かったことは否まれず、いまだに「ら」行音は少数派なのである。

ところで、「ら」行音は舌を用いる音として、「た」行の音と相通ずるところがある。「ら」行の場合には、舌の先を上の歯茎に軽く触れさせるのであるが、「た」行の場合には、両者を強く摩擦して、音を破裂させるようにして出す。英語のlとtについても、同じような対応関係があるようで、われわれ日本人には、tがlのように聞こえることがある。(ビューティフルがビューリフルに聞こえる)

なにかの理由で口舌の状態に異常をきたしたとき、いわゆる呂律の廻らない状態に陥ることがある。酔うと舌が廻らなくなるのはいたしかたのないことで、その結果、舌を用いる音である「た」行や「ら」行や「な」行の音を尋常に発することができなくなる。酔っ払いたちは「よっぱらっらのら」とか「こんにゃろめ」とか喚いては、周囲を失笑させることともなるのである。

呂律とは本来音階の調子をさし、それが合わぬとは音階が乱れているという意味である。ところが、酔っ払いの言語においては、とくに「らりるれろ」が乱れることから、「ロ列が廻らぬ」という具合に、転用されるに至ったものらしい。いづれにしても、「首が廻らぬ」よりは、ましかもしれない。

(筆者は、関西弁については、ほとんど門外漢であるが、関西においては、「ら」行の音が一部「は」行の音と混交する現象が見られるようだ。たとえば、「持っておられる」というのを、「持ってはる」という類である。)


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