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「ぢ」と「じ」、「づ」と「ず」


「だ」行の音のうち、「ぢ」と「づ」については、今日の日本語では、それぞれ「ざ」行の「じ」あるいは「ず」と全く異ならない音となった。それでも、残されているのは、「千々に」(ちぢに)や「続く」(つづく)のように、連濁によって後の音が濁音に変わるような場合に、「じ」や「ず」では都合が悪かろうという、表記上の配慮からと思われる節がある。それ以外では、「まづ」、「いづれ」、「ぢめん」といった言葉は、「まず」、「いずれ」、「じめん」という風に、おおかた「ざ」行の文字をもってあてるようになってしまった。わずかに、薬屋の垂幕に「ぢ」という文字を見かけるのは、客の目を引くための愛嬌かもしれない。

「だ」行の音は、古代においては da, di, du, de, do と発音されていたらしい。「だ」行の清音「た」行の音についても、ta, ti、tu, te, to と発音されていたらしいのである。それが、いつの頃からか、di はdji に du は dzu に変わり、ti は tchi に tu は tsu に変わった。一方、「ざ」行の清音たる「さ」行の音については、今日のような sa, shi, su se, so ではなく、sa, si, su, se, soであったとする説や、 sha, shi, shu, she, sho であったとする説がある一方, cha, chi, chu, che, cho であったとする説や tsa, tsi, tsu, tse, tso であったとする説が入り乱れ、定説を得ない。

このように多様な説をもたらすことから伺われるように、「だ」行や「ざ」行の音には、それ自体の中に、変動を促すような導因があったらしく、その導因がもたらした変動の過程の中で、「ぢ」と「じ」、「づ」と「ず」が融合したのかもしれない。

かように、日本語の音の中でも、破裂音としての「た」行と、摩擦音としての「さ」行には、ほかの音に比較して不安定な要素があるようだ。今日これらの音に見られる、行内での音列の見かけ上の不規則性も、こうした事情から生まれたもののようである。


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