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我が放浪:アルチュール・ランボーの放浪癖


1870年8月末、ランボーは家を出てパリに向かった。金のないランボーは本を売って得た僅かの金で、隣駅のモーオンまで切符を買い、そのまま無賃乗車をしてパリ駅までたどり着いたのである。ランボーの最初の放浪であった。

だがランボーは無賃乗車のほかに、スパーの嫌疑を受けてマザスの監獄にぶち込まれてしまった。前の月に普仏戦争が勃発し、フランス中が興奮状態にあった。そんな中で、プロシャ国境に近い町シャルルヴィルからやってきた不審な少年は、官憲に対して余計な猜疑心を与えたのであろう。

「我が放浪」は、ランボーのこの最初の放浪を詠んだものだと思われる。まだ15歳だった少年詩人の、世の中に対する気負いのようなものを感じさせる作品である。


(我が放浪:拙訳)

  俺は歩いた 破れたポケットに両手を突っ込んで
  外套もポケットに劣らずおあつらえ向きだった
  大空の下を俺は歩いた ミューズを道案内にして
  何たる愛の奇跡を俺は夢見たことか

  一張羅のズボンにもでっかい穴があいていた
  俺は夢見る親指小僧よろしく道々詩に韻を踏ませた
  俺様の今夜の宿は大熊座
  あちこちにきらめくは我が星座

  俺は聞き入る 道端にしゃがみ込んで
  九月のこの良き夕空に浮かぶ星たちのささやきに
  すると夜露がワインの滴となって俺の額を濡らし

  俺はいよいよ韻を踏むのに夢中になると
  膝を胸に引き寄せて竪琴のように抱え込んでは
  靴の紐を引っ張って楽器のかわりにしたのだった


(フランス語原文)
Ma Bohéme : par Arthur Rimbaud

  Je m'en allais, les poings dans mes poches crevées ;
  Mon paletot aussi devenait idéal ;
  J'allais sous le ciel, Muse ! et j'étais ton féal ;
  Oh ! là là ! que d'amours splendides j'ai rêvées !

  Mon unique culotte avait un large trou.
  - Petit-Poucet rêveur, j'égrenais dans ma course
  Des rimes. Mon auberge était à la Grande Ourse.
  - Mes étoiles au ciel avaient un doux frou-frou

  Et je les écoutais, assis au bord des routes,
  Ces bons soirs de septembre où je sentais des gouttes
  De rosée à mon front, comme un vin de vigueur ;

  Où, rimant au milieu des ombres fantastiques,
  Comme des lyres, je tirais les élastiques
  De mes souliers blessés, un pied près de mon coeur !


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