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盗まれた心:ランボーの脅迫観念


ランボーの詩「盗まれた心」は、「酔いどれ船」とともに、彼の初期の詩を代表するものであるが、それが何を歌ったのかについては、さまざまな議論があった。最もショッキングなのは、これが強姦された経験を歌ったものだとする説だ。

この詩は最初「道化者の心」Le Coeur du Pitreと題され、次に「処刑された心」Le Coeur supplicie と変わり、最後に「盗まれた心」Le Coeur Volé に落ち着いた。

最初に書かれたのは、パリ・コミューンの崩壊前後であるらしい。ランボーはコミューンの町の中をうろつき歩いているうち、荒くれ男たちによって、男色の餌食にされたのではないか。

盗まれた心といい、そそりたつ男根といい、この詩には強迫観念のようなものがあふれている。


―盗まれた心(拙訳)

  俺の哀れな心臓が船尾でよだれを垂らしている
  タバコの脂がまとわり付いた哀れな俺の心臓
  その上に奴らがげろを浴びせかけて
  俺の哀れな心臓は船尾でよだれを垂らしている
  船員たちはそんな俺の心臓をからかい
  大笑いに囃し立てるが
  俺の哀れな心臓は船尾でよだれを垂らすばかり
  タバコの脂がまとわり付いた哀れな俺の心臓

  怒張してそそり立つ偉大な男根が
  奴らの罵り騒ぎで萎縮した
  舵の柄に描かれたフレスコの絵
  怒張してそそり立つ偉大な男根よ
  おお波よ! アブラカダブラ!
  俺の汚れた心臓を洗い清めてくれ
  怒張してそそり立つ偉大な男根が
  奴らの罵り騒ぎで萎縮した

  奴らが噛み煙草をかみ捨てたら
  次は何が起こるんだ 盗まれた俺の心よ
  バッコスの巫女たちの乱痴気騒ぎか
  奴らが噛み煙草をかみ捨てたら
  とりあえず酔い止めの薬でも飲もう
  俺の心が再びおかしくなる前に
  奴らが噛み煙草をかみ捨てたら
  次は何が起こるんだ 盗まれた俺の心よ


(フランス語原文)
Le Coeur Volé : Arthur Rimbaud Mai 1871

  Mon triste coeur bave à la poupe,
  Mon coeur couvert de caporal :
  Ils y lancent des jets de soupe
  Mon triste coeur bave à la poupe :
  Sous les quolibets de la troupe
  Qui pousse un rire général,
  Mon triste coeur bave à la poupe,
  Mon coeur couvert de caporal.

  Ithyphalliques et pioupiesques
  Leurs quolibets l'ont dépravé.
  Au gouvernail, on voit des fresques
  Ithyphalliques et pioupiesques.
  O flots abracadabrantesques
  Prenez mon coeur, qu'il soit lavé.
  Ithyphalliques et pioupiesques
  Leurs quolibets l'ont dépravé !

  Quand ils auront tari leurs chiques
  Comment agir, ô coeur volé ?
  Ce seront des hoquets bachiques
  Quand ils auront tari leurs chiques
  J'aurai des sursauts stomachiques
  Moi, si mon coeur est ravalé:
  Quand ils auront tari leurs chiques,
  Comment agir, ô coeur volé ?


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