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オフェリア:ランボーのイマジネーション


シェイクスピア作「ハムレット」の悲劇のヒロイン「オフェリア」は、画家や詩人たちのイマジネーションを刺激してきた。特に、19世紀の中頃に起こったイギリスの「ラファエル前派」は、オフェリアを共通の主題とするかのように、様々な画家がそれぞれ繰り返し描いている。中でもミレイの「水に浮かぶオフェリア」の絵はとりわけ有名だ。

ランボーもミレイの絵は見ていたらしい。また、テオフィル・バンヴィルの「オフェリア」を主題にした詩も読んでいたらしい。

詩は、小川を流れていくオフェリアをイメージしている。ヴェールに包まれた白いオフェリアのイメージは、ミレイの絵から汲み取ったものだろう。

視覚性にすぐれた、ランボーのイマジネーションを感じさせる作品である。


(オフェリア:拙訳)

          Ⅰ

  星が眠る静かな暗い流れに沿って
  百合のような白いオフェリアが流れてゆく
  ゆるやかに 長いヴェールにつつまれながら
  遠くの森からは鹿を追う笛の音が聞こえてくる

  百年以上もの間 可愛そうなオフェリアは
  暗い流れにたゆたってきた 白い幽霊のように
  百年以上もの間 狂ってしまったオフェリアは
  夕べのそよ風に向かって語り続けた

  風がオフェリアの胸をなで 花の冠をほどく
  水につかったヴェールは沈みつつ流れる
  柳の枝がオフェリアの肩に寄り添って泣く
  イグサはオフェリアの広い額にもたれかかる

          Ⅱ

  青ざめて 雪のように美しいオフェリアよ!
  お前は死んで 小川の流れに連れ去られる
  ノルウェーの山々から風が吹き下りてきて
  小さな声で お前に自由を語る

  風の息吹がお前の髪にまとわりつき
  お前の夢見る心に遠い世界の声を聞かせる
  お前の心は自然の歌に耳を傾け
  木々のうなり 夜のため息を聞き取るのだ

  怒り狂った海の 大きな叫び声が
  お前の小さな無垢の心を撃ち砕いたのだ
  四月の朝 青ざめた騎士 哀れな道化が
  声もなく お前の前にひざまついたのだ

  天よ 愛よ 自由よ! 何たる夢 何たる狂気!
  雪が火にとけるように お前はハムレットに溶けたのだ
  幻想がお前の言葉をとらえ
  お前の青い目は恐ろしい無限におののいた

          Ⅲ

  詩人は歌う 星の光の下で
  オフェリアが夜な夜な花を探していると
  長いヴェールに包まれた白百合のようなオフェリアを
  ハムレットは今も水の上に見守っていると


(フランス語原文)
Ophélie : Arthur Rimbaud

          I

  Sur l'onde calme et noire où dorment les étoiles
  La blanche Ophélia flotte comme un grand lys,
  Flotte très lentement, couchée en ses longs voiles...
  - On entend dans les bois lointains des hallalis.

  Voici plus de mille ans que la triste Ophélie
  Passe, fantôme blanc, sur le long fleuve noir
  Voici plus de mille ans que sa douce folie
  Murmure sa romance à la brise du soir

  Le vent baise ses seins et déploie en corolle
  Ses grands voiles bercés mollement par les eaux ;
  Les saules frissonnants pleurent sur son épaule,
  Sur son grand front rêveur s'inclinent les roseaux.

  Les nénuphars froissés soupirent autour d'elle ;
  Elle éveille parfois, dans un aune qui dort,
  Quelque nid, d'où s'échappe un petit frisson d'aile :
  - Un chant mystérieux tombe des astres d'or

          II

  O pâle Ophélia ! belle comme la neige !
  Oui tu mourus, enfant, par un fleuve emporté !
  C'est que les vents tombant des grand monts de Norwège
  T'avaient parlé tout bas de l'âpre liberté ;

  C'est qu'un souffle, tordant ta grande chevelure,
  À ton esprit rêveur portait d'étranges bruits,
  Que ton coeur écoutait le chant de la Nature
  Dans les plaintes de l'arbre et les soupirs des nuits ;

  C'est que la voix des mers folles, immense râle,
  Brisait ton sein d'enfant, trop humain et trop doux ;
  C'est qu'un matin d'avril, un beau cavalier pâle,
  Un pauvre fou, s'assit muet à tes genoux !

  Ciel ! Amour ! Liberté ! Quel rêve, ô pauvre Folle !
  Tu te fondais à lui comme une neige au feu :
  Tes grandes visions étranglaient ta parole
  - Et l'Infini terrible éffara ton oeil bleu !

          III

  - Et le Poète dit qu'aux rayons des étoiles
  Tu viens chercher, la nuit, les fleurs que tu cueillis ;
  Et qu'il a vu sur l'eau, couchée en ses longs voiles,
  La blanche Ophélia flotter, comme un grand lys.


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