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谷間に眠るもの:ランボー戦死者を歌う


ランボーが住むアルデンヌ県一帯はフランス北東部に位置し、プロシャとの国境に近いこともあって、普仏戦争の際には戦場と化した。1870年10月末にはメッツがプロシャ軍に降伏、翌年1月1日にはメジェールが降伏、そして2日にはシャルルヴィルが降伏している。

ランボーは、この戦争に対してはあまり深い関心を寄せなかったようだ。まだ若すぎたことがあったのかもしれないが、彼の足跡には愛国的な気分を感じさせるものは残っていない。

それでも、戦争が日常の出来事となって、あちこちに戦闘が起こり、その結果大勢の死者が出る光景は見たことであろう。

「谷間に眠るもの」という詩は、戦死した若者を歌ったものだ。おそらくランボー自身が目撃した有様を、イマジネーションに高めたのだと思われる。


(谷間に眠るもの:拙訳)

  ここは小川がせせらぐ緑の窪地
  草は銀の切れ端のようになびき
  太陽は山の頂から光を注ぐ
  ここは光あふれる小さな谷間

  若い兵士が眠っている
  口をあけ帽子も被らず首をクレソンに埋めて
  大空の下 草の上にのびのびと横たわる
  青ざめた唇には光が雨となって降り注ぐ

  足をグラジオラスの茂みに埋め
  子どものような笑みを浮かべて若者は眠る
  自然よ この冷たくなった若者を暖めておくれ

  どんな香りももう若者の鼻にただようことはない
  若者は陽光の中で静かに眠る
  手を胸に 脇腹には二つの赤い穴を抱えて

詩には、若者を殺した戦争への言及は全くない。脇腹に赤い穴を抱え、緑したたる谷間に横たわっている若者の姿が、人間の生命というものを象徴的に語っているだけだ。


(フランス語原文)
Le Dormeur du Val : Arthur Rimbaud Octobre 1870

  C'est un trou de verdure où chante une rivière
  Accrochant follement aux herbes des haillons
  D'argent ; où le soleil, de la montagne fière,
  Luit : c'est un petit val qui mousse de rayons.

  Un soldat jeune, lèvre bouche ouverte, tête nue,
  Et la nuque baignant dans le frais cresson bleu,
  Dort ; il est étendu dans l'herbe sous la nue,
  Pâle dans son lit vert où la lumière pleut.

  Les pieds dans les glaïeuls, il dort. Souriant comme
  Sourirait un enfant malade, il fait un somme :
  Nature, berce-le chaudement : il a froid.

  Les parfums ne font pas frissonner sa narine ;
  Il dort dans le soleil, la main sur sa poitrine,
  Tranquille. Il a deux trous rouges au côté droit.


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