詩経国風
詩経は中国最古の詩篇を集めたものである。成立過程については諸説あって明らかでない。司馬遷は、孔子が当時伝えられていた三千もの詩篇の中から三百篇を選んで一本に編纂したのだといっている。確固たる根拠はないらしいが、孔子がこれを易や春秋と並んで重視したことは確かで、論語為政篇には次のような記述がある。
詩経は中国最古の詩篇を集めたものである。成立過程については諸説あって明らかでない。司馬遷は、孔子が当時伝えられていた三千もの詩篇の中から三百篇を選んで一本に編纂したのだといっている。確固たる根拠はないらしいが、孔子がこれを易や春秋と並んで重視したことは確かで、論語為政篇には次のような記述がある。
詩経国風に出てくる十五の国・地方のうち、最初に位置するのは周南である。周南は次に出てくる召南とともに、周の南の地域の歌謡を集めたものだとされる。周の始祖后稷から数代を経た時、周は故地を分かちて、周公と召公とにそれぞれ治めさせた。いづれも今の陝西省の地域に属する。周は後に華北全体を覆う大帝国となるが、そのなかでも陝西省にあった周と召とは、国家の中核をなすところだったのである。
詩経国風:周南篇から「葛覃」を読む。(壺齋散人注)
葛之覃兮 葛の覃(の)びるや
施于中谷 中谷に施(うつ)る
維葉萋萋 維(こ)れ葉 萋萋たり
黃鳥于飛 黃鳥于(ここ)に飛ぶ
集于灌木 灌木に集(つど)ひ
其鳴喈喈 其の鳴くこと喈喈たり
詩経国風:周南篇から「卷耳」を読む。(壺齋散人注)
采采卷耳 卷耳を采り采る
不盈頃筐 頃筐に盈たず
嗟我懷人 嗟(ああ)我 人を懷ひて
寘彼周行 彼の周行に寘(お)く
詩経国風:周南篇から「樛木」を読む。(壺齋散人注)
南有樛木 南に樛木(きゅうぼく)有り
葛藟纍之 葛藟(かつるい)之に纍(かさ)なる
樂只君子 樂しきかな君子
福履綏之 福履之に綏んず
詩経国風:周南篇から「桃夭」を読む。(壺齋散人注)
桃之夭夭 桃の夭夭たる
灼灼其華 灼灼たり其の華
之子于歸 この子ここに歸(とつ)がば
宜其室家 其の室家に宜しからん
詩経国風:周南篇から「芣苡」を読む。(壺齋散人注)
采采芣苡 芣苡を采り采り
薄言采之 薄(いささ)か言(ここ)に之を采る
采采芣苡 芣苡を采り采り
薄言有之 薄か言に之を有(も)つ
詩経国風:周南篇から「漢廣」を読む。(壺齋散人注)
南有喬木 南に喬木有り
不可休息 休息す可からず
漢有游女 漢に游女有り
不可求思 求思す可からず
詩経国風:周南篇から、「汝墳」を読む。(壺齋散人注)
遵彼汝墳 彼の汝墳に遵(したが)ひ
伐其條枚 其の條枚を伐る
未見君子 未だ君子を見ず
惄如調飢 惄(でき)として調飢の如し
召南とは、周南の項で記したとおり、周の領土の南部のうち、召公が分け持った土地を指す。今そこがどのあたりにあたるのかについては、諸説ある。黄河の南であろうとすることから、楚の地に当たるところではないかとする説もあるが、真相はわからない。いづれにしても、周の領土の一部であるから、そこから生まれた歌謡群は、周南に収められたものと共通するところが多い。
詩経国風:召南篇から「草蟲」を読む。(壺齋散人注)
喓喓草蟲 喓喓たる草蟲
趯趯阜螽 趯趯(てきてき)たる阜螽(ふしゅう)
未見君子 未だ君子を見ず
憂心忡忡 憂心 忡忡たり
亦既見止 亦既に見
亦既覯止 亦既に覯(あ)はば
我心則降 我が心則ち降(よろこ)ばん
詩経国風:召南篇から「殷其雷」を読む。(壺齋散人注)
殷其雷 殷たる其の雷
在南山之陽 南山の陽(みなみ)に在り
何斯違斯 何ぞ斯れ斯(ここ)を違(さ)って
莫敢或遑 敢(あ)へて遑(いとま)或ること莫きや
振振君子 振振たる君子
歸哉歸哉 歸らん哉 歸らん哉
詩経国風:召南篇から「摽有梅」を読む。(壺齋散人注)
摽有梅 摽(お)ちて梅有り
其實七兮 其の實七つ
求我庶士 我を求むるの庶士
迨其吉兮 其の吉に迨(およ)ぶべし
詩経国風:召南篇から「小星」を読む。(壺齋散人注)
嘒彼小星 嘒(けい)たる彼の小星
三五在東 三五 東に在り
肅肅宵征 肅肅として宵(よる)征き
夙夜在公 夙夜 公に在り
寔命不同 寔(これ)命同じからざればなり
詩経国風:邶風篇から「柏舟」を読む。(壺齋散人注)
汎彼柏舟 汎たる彼の柏舟
亦汎其流 亦た汎として其れ流る
耿耿不寐 耿耿として寐ねられず
如有隱憂 隱憂あるが如し
微我無酒 我に酒の以て敖(ごう)し
以敖以遊 以て遊する無きに微(あら)ず
詩経国風:邶風篇から「日月」を読む。(壺齋散人注)
日居月諸 日や月や
照臨下土 下土を照臨す
乃如之人兮 乃ちかくの如き人
逝不古處 逝(ここ)に古處せず
胡能有定 胡(なん)ぞ能く定まることあらんや
寧不我顧 寧(なん)ぞ我を顧りみざるや
詩経国風:邶風篇から「北風」を読む。(壺齋散人注)
北風其涼 北風其れ涼たり
雨雪其れ 雨雪其れ雱たり
惠而好我 惠にして我を好(よみ)するものと
攜手同行 手を攜へて同行せん
其虚其邪 其れ虚(ゆる)くせんや 其れ邪(ゆる)めんや
既亟只且 既に亟(すみやか)ならん
詩経国風:邶風篇から「靜女」を読む。(壺齋散人注)
靜女其姝 靜女 其れ姝(かおよ)し
俟我於城隅 我を城隅に俟(ま)つ
愛而不見 愛(かく)れて見えず
搔首踟躕 首を搔きて踟躕す
詩経国風:鄘風篇から「柏舟」を読む。(壺齋散人注)
汎彼柏舟 汎たる彼の柏舟
在彼中河 彼の中河に在り
髧彼兩髦 髧(たん)たる彼の兩髦
實維我儀 實に維れ我が儀
之死矢靡它 死に之(いた)るまで矢(ちか)って它靡(な)し
母也天只 母や天や
不諒人只 人を諒とせず
詩経国風:衛風篇から「氓」を読む。(壺齋散人注)
氓之蚩蚩 氓の蚩蚩(しし)たる
抱布貿絲 布を抱いて絲を貿(か)ふ
匪來貿絲 來って絲を貿ふに匪(あら)ず
來即我謀 來って我に即(つ)いて謀るなり
送子涉淇 子を送りて淇を涉り
至於頓丘 頓丘に至る
匪我愆期 我期を愆(すぐ)すに匪ず
子無良媒 子に良媒無し
將子無怒 將(こ)ふ子怒ること無かれ
秋以為期 秋を以て期と為さん