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煙突掃除の子(ブレイク詩集:無垢の歌)


ウィリアム・ブレイクの詩集「無垢の歌」から「煙突掃除の子」の歌 The Chimney-Sweeper (壺齋散人訳)


煙突掃除の子

  僕の母さん僕のちっちゃい時に死んだ
  僕の父さん僕を人に売り飛ばした
  僕がまだ舌も回らず 悲しいとさえいえないときに
  それで僕はこんなふうに 煙突掃除になったのさ 

  掃除仲間のトム・ダーカーは カールの髪をしてたけど
  自慢の髪を刈られたとき 悲しさ余りに泣き叫んだ
  そこで僕はいったんだ やいやいトムよ気にするな
  坊主ならブロンドが 煤で黒くなることもない

  そんなことのあった夜に トムはへんてこな夢を見た
  煙突掃除の小僧たちが 何千となく湧き出てきて
  ディックやジョーや、ネッドやジャックや
  一人残らず煤けた棺に 閉じこめられてしまったのさ

  そこへ天使が通りがかり 輝く鍵で棺をあけた
  閉じ込められた小僧たちは 喜び勇んで出てきたものさ
  緑の牧場に下りていくと 笑いながら走り回り
  川で水を浴びてみたり 日光浴をしたものさ

  真っ裸になったと思うや 商売道具を投げ捨てて
  雲に乗って舞い上がり 風のまにまに戯れ遊んだ
  天使はトムにいったものだ ちゃんと勤めを果たしていれば
  神様が父親代わり 何の不足もないのだよ 

  こうしてトムは目が覚めて 僕らは暗闇を立ち上がると
  商売道具を持参して 煙突掃除の仕事に出かけた
  朝の空気は冷たかったけれど 僕らは幸せだったのさ
  自分の務めを果たしていれば 恐れるものは何もない

煙突掃除の男の子たちを歌ったこの詩は、読むものに複雑な感情を覚えさせる。子どもたちの純真さと無垢な遊びの背景に、煙突掃除をしなければならないという過酷な現実があるからだ。

ブレイクの時代には児童労働が蔓延していた。中でも煙突掃除は児童労働の巣窟のようなものだった。狭い煙突の中を掃除するには、身体が小さく敏捷な子どもの労働が向いていたのである。だから貧しい家の子どもたちは5歳ころになると、煙突掃除の人夫として、父親によって売り飛ばされた。

この詩の中の主人公も、そうやって父親に売り飛ばされたといっている。だが子どもたちは萎れてばかりはいない。夢の中でとはいえ、大勢の煙突掃除の男の子たちが、天使によって導かれ、野原や空中を遊びまわる。その無垢な姿が、この作品に救いのような明るさをもたらしている。最後が教訓的になるのは、ブレイクのブレイクらしいところだ。


The Chimney-Sweeper William Blake

  When my mother died I was very young,
  And my father sold me while yet my tongue
  Could scarcely cry 'Weep! weep! weep! weep!'
  So your chimneys I sweep, and in soot I sleep.

  There's little Tom Dacre, who cried when his head,
  That curled like a lamb's back, was shaved; so I said,
  'Hush, Tom! never mind it, for, when your head's bare,
  You know that the soot cannot spoil your white hair.'

  And so he was quiet, and that very night,
  As Tom was a-sleeping, he had such a sight! -
  That thousands of sweepers, Dick, Joe, Ned, and Jack,
  Were all of them locked up in coffins of black.

  And by came an angel, who had a bright key,
  And he opened the coffins, and set them all free;
  Then down a green plain, leaping, laughing, they run
  And wash in a river, and shine in the sun.

  Then naked and white, all their bags left behind,
  They rise upon clouds, and sport in the wind:
  And the angel told Tom, if he'd be a good boy,
  He'd have God for his father, and never want joy.

  And so Tom awoke, and we rose in the dark,
  And got with our bags and our brushes to work.
  Though the morning was cold, Tom was happy and warm:
  So, if all do their duty, they need not fear harm.

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