瀞八丁めぐり:紀伊半島の旅その二

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二日目は熊野三山に向けての長旅。ひたすら走った後、熊野の速玉大社と那智大社に詣で、その途中に熊野古道の切れ端を歩こうという趣向だ。

バスは八時前にホテルを出発すると、すぐに一軒の真珠店に立ち寄った。そこで筆者は、家内のためにピアス一式を買い求めた。紫真珠に金細工が施され、小さなダイアモンドも嵌め込まれている。罪滅ぼしと言うわけでもないが、自分だけ楽しんでいては申し訳ないから。

真珠店を出て、一旦お伊勢さんの参道まで戻って後、一路南へと向かう。走る道は国道42号線、前半は紀勢本線の鉄道と並行しながら山道を走っていたが、後半には時折海岸線を望むようになり、地形が急峻になってきた。特に尾鷲と熊野の境界付近は、山容が海岸まで迫り、断崖の様相を呈しているところもある。

正午過、瀞八丁の取りつき地点に到着する。瀞八丁とは、熊野川の支流北山川沿いの峡谷瀞峡の入り口部分1キロばかりをいう。深くえぐられた峡谷の両側に奇岩洞窟が並ぶことで知られる日本有数の景勝である。

この渓谷美をウォータージェットと呼ばれる高速船に乗って観賞する。船は波しぶきを立てながら進んでいくが、あまり揺れることはない。そこで筆者は弁当を持ち出して、周りの目を憚らずに食った。ほとんどの人はバスの中で食事を済ませていたのだったが、乗り物に弱い筆者には、バスの中で揺られながら、物を食うような芸当はできなかったのだ。

窓外には、船のガイドの案内に従って、奇景が次々と現れた。獅子岩、亀岩、松茸岩、墜落岩、夫婦岩、屏風岩といった奇岩群と寒泉窟、竜泉窟といった洞窟の類だ。岩の方はなかなか眺めがいがあるが、洞窟の方は口を開いているところが見えるだけで、本当の迫力は中に入ってみなければわかるまいと思われた。

ややして、和歌山、三重、奈良三県の県境という地点に差し掛かった。そこに小さな砂洲があって、船から降りて渓谷美を身近に堪能できるようになっている。我々はそこに降りて記念撮影をした。汀にはカヤックが二艘浮かんでいる。また砂洲の上の断崖には古ぼけた木造の旅館が立っていて、いまにも渓谷に向かって崩れ落ちてきそうな頼りなさを感じさせる。

この砂洲までが下瀞で、そこから上流は上瀞と呼ばれる。我々は再び船に乗り込んで上瀞を観賞した。砂洲のちょっと上流には吊り橋がかかっている。日常渡る人がいるのかしらと危ぶまれるほど頼りなげな様子にみえる。高所恐怖症の筆者などには、とても渡れそうもない。

上瀞と奥瀞の分岐点まで行って、船は引き返した。砂洲を過ぎたところで、カヤックを追いこした。カヤックから両岸を眺めあげれば、また一段と趣向に富んだ風景が展開するだろう、いつしか小舟に乗って、新緑まばゆい秩父の長瀞の渓流をさかのぼった時のことを思い出して、そう感じた次第だ。





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このページは、が2012年5月30日 19:07に書いたブログ記事です。

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