経済学と世界経済


フランスのオランド大統領が打ち出した富裕層への増税政策が広範な議論を呼んでいる。政策の目玉となるのは、所得税の最高税率を75パーセントに引き上げようとするものだが、そこには二つの目的があると言われている。ひとつは、財政立て直しの方策として、これまでのように間接税の引き上げばかりに頼るのではなく、直接税である所得税の増税にウェイトを置こうとすることだ。もうひとつは、富裕層に税負担を重くすることで、格差の拡大を是正しようとすることだ。

「スティグリッツ教授の経済教室」(藪下史郎、藤井清美訳、ダイアモンド社)を読んだ。スティグリッツ教授が、2003年から2007年にかけて、週刊ダイアモンド誌に月一回ペースで寄稿した記事を中心に編集したものだ。

スティグリッツ博士は、IMFが1980年代以降市場原理主義者たちの牙城となり、誤った経済政策を追求することになった結果、1990年代以降、世界経済に破壊的な作用を及ぼしたと、強く批判している。そんな中でもIMFの罪が最も大きいのは、東アジア危機を発生するきっかけを作ったことと、それを大災害へと発展させたことだという。

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6月28-29の両日にわたって行われたユーロ首脳会議で、ふたつの重大な決定がなされた。ひとつは銀行同盟の結成であり、もう一つはヨーロッパ中央銀行による各国国債の直接買い取り制度の導入である。ふたつとも、ユーロの統合を一段と深化させるものであり、今や危機的な状態に陥っているユーロへの信認を回復させるものだとして、一定の評価を受けているようだ。いわく、ユーロ統合へ向けて数歩前進だと。

スティグリッツ博士と言えば、クルーグマン教授と並んで、市場原理主義者たちの最強の敵として知られる。その言うところは論旨明快で、しかも経済の現実を良く説明しえているというので、市場原理主義の破綻が明らかになった今日、経済理論として主流の場に躍り出てもおかしくない。ところが、現実にはなかなかそうはならないで、相変わらず新古典派経済学の考え方が大手を振ってまかり通っている。その主流派の経済学の実験場になっているのが、IMF、世界銀行、WTOといった国際経済機関であり、かれらはグローバリズムを推進すると称して、相変わらず世界中の人々を不幸に陥れている、とスティグリッツ博士は言うのだ。

ユーロは解体寸前の危機に直面している。解体せずにユーロ圏というものを維持していくためには、一つの選択肢しかない。アメリカ型の連邦制に、即時移行することだ。もはや残された時間はほとんどない。こう断言しているのは、ニアル・ファーガソンだ。Europe's Lehman Brothers Moment Newsweek

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経済誌 Economist の最近号が、空洞化が急速に進む日本経済について言及している。The hollow men The deindustrialisation of Japan may be neither as complete nor as damaging as feared By Banyan

EUがスペインの銀行支援として100億ユーロを拠出することにスペインのラホイ首相が同意した。「同意した」というのは、直前までスペインがEUによる支援を拒絶しており、それに対してEUが、危機が深刻化する前に、支援を要請しろというシグナルを出していた事実があるからだ。

ゴーン日産社長の年間報酬が10億円を突破するそうだ。10億円と言われても、筆者のような貧乏人には実感がわかない。当のゴーン氏によれば、別に取り分けて高い金額ではなく、世界の相場からすればリーズナブルな金額なのだそうだ。

経済学者ポール・クルーグマンの最新の著作「今すぐ不況を終わらせろ End this Depression Now」の書評が,Guardian のサイトに載っていた。Paul Krugman: 'I'm sick of being Cassandra. I'd like to win for once'

神野直彦氏は、金子勝氏とともに、小泉構造改革に象徴される新自由主義的な経済思想に一貫して批判的な態度を取ってきた。批判的と言うより、敵視していると言ったほうが良い。たしかにその舌鋒は、金子氏のものよりも鋭い。そのため氏の言説はとかく異端視され、氏自身も自分の説が異端であることを認めているほどだ。

G8はギリシャが是非ユーロに留まるよう異例の熱いメッセージを発したが、本当にそう思うのなら、ドイツや北欧圏の豊かな国々が、救いの手を差し伸べねばなるまい。口先だけでは、物事は進まないからだ。もし、必要な救済措置が取られないようなら、ギリシャのユーロ離脱は不可避となるだろう。そうなった場合に果してどんな事態が待ち受けているか、さまざまなシミュレーションがなされている。筆者も、筆者なりのシミュレーションをしてみた。

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アメリカのキャンプ・デーヴィッドで行われた今年のG8は、ユーロ危機と世界的な経済不況が最大の問題となった。共同声明では、財政健全化と並んで経済成長の重要性が謳われ、また、ギリシャがEUから離脱しないように呼びかけるなど、異例のメッセージも目立った。

2000年代10年間前半の小泉政権時代に展開された所謂小泉・竹中構造改革路線に、金子勝氏は手厳しい評価を下している。その論点を大まかに言えば、アメリカによるグローバリゼーションの要求に盲目的に追随したために、日本経済を大きく毀損し、失われた10年を更に延長させて、失われた20年にしてしまったというものである。

金子勝氏は1990年代以降の世界経済を牽引してきたグローバリゼーションの動きに、一貫して批判的な態度を取ってきた人だ。1999年に現した著作「反グローバリズム」は、そんな氏の考え方をまとめた本だったというが、それから10年経過した後、2008年のリーマンショックに始まる世界金融恐慌を踏まえて、グローバリゼーションの破綻が必然的なものだったことを論証したのが、「新・反グローバリズム」だ。グローバリズムとはグローバライゼーションを錦の御旗に掲げるアメリカの新自由主義たちの方向性を、金子氏流儀に表現した言葉だろう。

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先日の総選挙結果を踏まえて、ギリシャでは上位三党を軸とした連立協議がうまくいかず、パプリアス大統領が調整に乗りだしたが、それも失敗、結局6月半ばに再選挙ということになった。再選挙になれば、緊縮財政に反対して今回第二党に躍進した急進左派連合が更に票を伸ばすことが予想され、ギリシャのユーロ離脱が一層現実味を増すこととなる。

先日発表されたJPモルガンの巨大損失に関連して、ポール・クルーグマンは、それが金融機関による相変わらずの投機熱がまたぞろ失敗した結果だとして、金融規制の必要性を改めて主張している。以下、彼がニューヨークタイムズのコラムに寄せた小論を、そのまま引用する。

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JPモルガン・チェースが金融デリバティブの取引を通じて20億ドルの巨額損失を出したことをめぐって、大きな波紋が起きている。オバマ政権の金融規制当局のメンバーで、マサチューセッツ州選出民主党下院議員候補者のエリザベス・ウォーレン女史は、JPモルガン・チェースを激しく批判し、「巨大銀行がリスクの多い取引に血眼になり、失敗すると国民の税金で救済してもらい、ほとぼりがさめるとロビー活動を行って規制を緩めさせる、こういったやり方は許せない」と憤っている。

第二次大戦後に生まれたブレトン・ウッズ体制がケインズ流の体制とするならば、1980年代以降は新古典派の経済理論が主流となり、政府の役割を縮小して市場の自主性に任せるべきだとするいわゆる市場原理主義が席巻するようになる。この市場原理主義的な経済体制は通常、ワシントン・コンセンサス体制と呼ばれている。

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ロバート・スキデルスキー氏は著名なケインズ研究者である。原著で全3巻、2000ページを超える大著「ジョン・メイナード・ケインズ」をはじめ、ケインズに関する膨大な著作がある。生涯をケインズ研究に捧げたといってよい。

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