今すぐ不況を終わらせろ End this Depression Now:クルーグマンの最新作

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経済学者ポール・クルーグマンの最新の著作「今すぐ不況を終わらせろ End this Depression Now」の書評が,Guardian のサイトに載っていた。Paul Krugman: 'I'm sick of being Cassandra. I'd like to win for once'

クルーグマンはアメリカ人だが、イギリスの政治家に対してもあけすけと忌憚のない忠告をしてくれた、とこの記事は始める。今のイギリスに必要なのは、緊縮政策ではなく、大規模な財政出動なのだと。

これはいうまでもなく、ケインズ派主流の考え方である。クルーグマンはこれまでニューケインジアンとされて、必ずしもケインズそのものの考え方に忠実だとは思われていなかったが、最近はぐっとケインズに近い考え方をするようになったようだ。

この本の中でクルーグマンが主張しているのは、今の世界不況を終わらせるためには、各国政府が一斉に財政支出を拡大することであって、メルケルやキャメロンが主張するような、一斉に緊縮財政につとめることではない。こんな非常事態に緊縮財政を追求することは、自分で自分の首を絞めることに他ならない。

ところがこの正論が、ケインズ派の経済政策はとっくの昔に死んだとみなされているおかげで、今やほとんどの国で採用されていない。採用されているのは、相変わらずマネタリストたちの意見だ。唯一アメリカのオバマ政権がケインズ的な財政拡大策を取ったが、あまり効果があがっているとは言えない現実がある。マネタリストたちは、それをケインズの政策が破たんしている証拠だと言って、ますます緊縮財政政策を主張するが、クルーグマンに言わせればそうではなく、政府支出の規模がお話にならないくらい小さかったことが、効果が上がらなかった原因なのだ。

オバマの景気刺激予算は8000億ドルだったが、そのうち3000億ドルは減税にあてられ、残りの5000億ドルの大部分も失業給付や生活保護に回され、公共事業のためには微々たる金額が残ったにすぎなかった。アメリカの経済規模は15兆ドルである。そのことからすれば、オバマの景気刺激予算はとても景気を刺激するところまでいかなかった。本当に必要なのは、経済規模の全体に影響を及ぼすことができるほどの景気刺激予算を組むことだった、そうクルーグマンは主張するわけなのである。

そして景気が回復して税収が増えた時点で、政府の借金を返せばいい。いまのような不況の時に、緊縮財政と称して政府の借金を減らそうとするのは全く馬鹿げたことだ、とクルーグマンは畳みかける。

各国の金融アナリストたちは、政府が放漫財政を行って赤字を積み上げれば、市場の信用を失って、格付も下げられると脅かしているが、そんな脅しは気にする必要がない。事実、日本は巨額の政府債務の存在を理由にたびたび格下げされたにもかかわらず、何も起こらなかった。アメリカだって、先日国債を格下げされてが、なんら痛痒を感じなかった。格付け会社の勝手な言い分などに一喜一憂する必要はない。一時的な財政赤字を恐れずに、経済を刺激することが政府の役割だ。それなのに今の各国政府は全く反対の事を行っている。頭の悪い連中だ、というわけである。

クルーグマンの率直さは一流のものだ。そのため彼はオバマ政権のエコノミスツグループに入れてもらえなかった。ブッシュ政権の時代には、クルーグマンの攻撃に腹を立てた右翼の連中から、しょっちゅう「殺してやるぞ」と脅されていた。

しかし、クルーグマンにはそんな脅しは屁の河童に映るようだ。自分の正しいと思うことを、何物をも恐れずに主張する、それがクルーグマンのやり方なのだ。





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このページは、が2012年6月 4日 19:51に書いたブログ記事です。

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