イチローがヤンキースに電撃トレードで加入する一方、松井がヤンキースに拾ってもらえないばかりか、大リーグに留まるのも難しくなっている事情を取り上げて、ニューヨーク・タイムズが、この二人の偉大な日本人プレーヤーを比較評価する記事を載せた。Careers of Suzuki and Matsui Are Further Intertwined
ニューヨーク・タイムズの記事はまず、松井が日米友好に果たした偉大な貢献にもかかわらず、古巣のヤンキースに拾ってもらえなかったことについて、同情する言葉を述べた後で、松井とイチローとを比較した。
松井は、アメリカでいえばオレゴン州のような田舎の県に生まれ育ち、田舎者らしい朴訥さと誠実な人柄を備えていた。そのことで松井は、日本の御婆さんたちから、抱きしめたいほどかわいいと思われた。そうした人柄は大リーグに来ても変わらなかったが、アメリカ人はそれを松井が紳士であることの証拠だと受け止めた。
一方イチローの方には、ひとことでいえば挑発的なところがあった。自尊心が高く、その言動が時には傲慢だとも受け取られた。そのためイチローは日本にあっては、松井ほど愛されなかった。彼がFAを宣言して大リーグ入りを目指した時にも、周囲はどちらかといえば、冷ややかに受け止めた。ところが松井が大リーグ入りを表明した時には、日本の野球ファンはみな、松井が去ることを惜しんだのである。
しかしイチローは大リーグですばらしい結果を残した。一年目から優秀な成績を上げ、新人王、首位打者、最優秀選手などのタイトルを獲得すると、日本の野球ファンもイチローを見直すようになった。毎年大勢の日本人が、イチローのプレーを見るために、シアトルに押し寄せた。こうしたイチローの活躍がなかったなら、松井が大リーグ入りを決断することもなかったかもしれない。
イチローと初期の松井の素晴らしい活躍ぶりがあって、他の球団も日本人を積極的にとるようになった。しかし、この二人に比べると、他の日本人プレーヤーは期待されたほどの結果を残すことができなかった。それ故、各球団の日本人プレーヤーを見る目は次第に厳しくなった、と記事は言う。
松井がいつもの謙虚な態度で、自分の境遇について愚痴一ついわないで、大リーグを去ろうとしているのに対して、イチローはクリント・イーストウッド(バットを構えたダーティ・ハリー)のようなクールな態度で、もう一花咲かせようと自分自身にムチ打っている。
だがヤンキースは甘いところではない。結果を残せなければ、すぐさま去らねばならない。松井でさえ冷たく切り捨てられたのであるから、イチローが今シーズンの残りの試合で実績を出せなければどんな結果が待っているか、明らかだ。名誉の殿堂入りが確実視されているイチローでも、これからの結果がすべてなのだ。
しかしイチローはそれを十分に分かったうえで、ヤンキースへの移籍を、自分から、申し出たと報道されている。イチローは自分自身のために、清水の舞台を用意したのかもしれない。(写真はイチローと松井:APから)
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