ミット・ロムニーがポール・ライアンを副大統領候補に選んだと聞いて、驚いたのは筆者のみではあるまい。ライアンと言えば、保守化の傾向を強めている共和党の中でも最も右寄りの人物だ。そのいうことは小さな政府の一点張りで、外交を含めて政治家としてのキャリアは非常に小さく、その能力にも疑問がもたれている。そういう人物を副大統領候補に選んだということは、共和党保守派の票を取り込みたいという意向が強く働いた結果だろう。なにしろライアンは共和党保守派のホープと言われる人材なのだ。
ロムニーはこのところ、オバマに水をあけられつつあった。その最大の要因は、経済対策をはじめ政策にメリハリがないことだと言われていた。ただネガティブ・キャンペーンを繰り返すだけでは、多数の有権者の心をつかむことはできないというわけだ。そこで、オバマに真正面から対抗できる政策として、小さな政府論を正面から掲げることにし、その理論的な提唱者としてのライアンを副大統領候補に引きずり込んだということなのだろう。
ライアンが主張しているのは、社会福祉をカットして、それで浮いた財源で減税をしようというものだ。彼がやり玉に挙げているのは、メディケアやメディケイドといった医療保険プログラムで、その抜本的な縮減を主張している。また社会福祉の民営化といった主張もしている。要するに金持ちの負担で貧乏人に金をばらまくのはやめようということだ。
こんなライアンの主張を、ノーベル賞経済学者のクルーグマンは日頃から手厳しく批判してきた。クルーグマンはライアンをゲッコーに譬える。ゲッコーとはウォール・ストリートの代弁者のことだ。つまりライアンの言っていることは、ウォール・ストリートの連中にいかに金もうけをさせるかということについてであって、金持の福祉のためには貧乏人の福祉は排除されねばならないという理屈だ。
こんな男を共和党の副大統領候補に選んだわけだから、いまひとつ明確でなかったロムニーの政策が、右寄りの路線で整合化されるのは間違いないだろう。それは福祉予算を削減するいっぽう、景気対策と称して大規模な減税を目指したものになるだろう。レーガノミックスの再現だ。
「貧乏人はくたばれ、金持にはもっと金持ちになる権利がある」 これがミットとポールのニュー・ライト・コンビが掲げる率直なスローガンだ。(写真はロムニー<右>とライアン<中>:APから)