阪倉篤義氏は、日本語の副詞表現のなかから、いくつかの特徴的なグループをあげている(日本語の語源)。
A~うっかり、ひっそり、ほっそり、にっこり、うっとり、にったり、こっそり、しっとり、ねっとり、のっそり、はっきり、べったり、むっくり、めっきり
B~しんみり、ほんのり、やんわり、ひんやり、まんじり、のんびり
C~すらり、ちらり、ゆらり、たらり、からり、きらり、そろり、ぐにゃり、ずばり
これらはいずれも、「うっかりと」のように「と」をつけて副詞として使うほかに、「うっかりとする」あるいは「うっかりする」のように(さ行変格)動詞として使うこともできる。
これらの言葉はさらに、「うかうか」、「しみじみ」、「すらすら」というような形(反復語)にもなる。むしろ歴史的にはこの形が基本だったのではないか。
このような、ひとつの語を反復する用例は、中国語やマレー語などにも見られるが、日本語においても、古事記以来の伝統的な用い方になっている。
そしてこの反復語をよく見ると、多くが擬態語であることに気づく。
これらの反復語は、「うか」、「しみ」、「すら」などの基本的な要素に還元できる。それを氏は「語基」と呼んでいる。日本語は、擬態語からこの語基の部分を取り出し、それをもとにして多くの品詞を作り出してきた歴史を持っているといえるのではないか。
たとえば、「ゆら」だ。これを用いたもっとも原始的な使い方は、「ゆら」を二つ重ねた「ゆらゆら」である。というよりか、原始の言葉「ゆらゆら」があって、そこから「ゆら」という語基が生じたと言い換えてもいい。
「ゆら」が「ゆる」になると動詞として使える。「ゆる」はさらに、「ゆらぐ」、「ゆれる」、「ゆらめく」などに変化する。
「ゆら」が「ゆれ」になると、名詞として使える。同じようにして、「ゆらぎ」、「ゆらめき」などの言葉が生まれる。「ゆり」もまた「ゆれ」の変形ではないか。百合は花びらが大きく揺れることで知られる花である。
形容詞は、「ゆらゆらとした」という具合に、形容動詞「ゆらゆらとする」を変化させて作る。
こうしてみれば、日本語の品詞は、擬態語が基になって、それから様々な言葉が作られてきたことがよく納得できる。日本語の語源の多くは、擬態語にあるわけなのだ。
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