シェイクスピアのソネット集第18番「君を夏の一日と比べてみようか」Shall I compare thee to a summer’s day を読む。(壺齋散人訳)
君を夏の一日と比べてみようか
君のほうが素敵だし ずっと穏やかだ
夏の荒々しい風は可憐な蕾を揺さぶるし
それに余りにも短い間しか続かない
時に太陽がぎらぎらと照りつけるけれど
その黄金の輝きも雲に隠されることがある
どんなに美しいものもやがては萎み衰え
偶然や自然の移り変わりの中で消え去っていく
でも君の永遠の夏は決して色あせない
君の今の美しさが失われることもない
死神が君を死の影に誘い込んだと嘯くこともない
君が永遠の詩の中で時そのものと溶け合うならば
人間がこの世に生きている限りこの詩も生きる
そして君に永遠の命を吹き込み続けるだろう
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シェイクスピアのソネット集は1609年に始めて出版された。時にシェイクスピア45歳、劇作家としての名声を確立し、代表作の殆どをこの時期までに書き終えている。そのシェイクスピアがこの時期に長い間秘蔵していたソネット集を刊行した理由のひとつとして、当時流行していたペストの影響が挙げられる。この疫病によって、劇場も閉鎖される羽目に陥り、シェイクスピアはそこから収入を得ることができなくなったため、新たな収入源を得ようとしてソネット集を出版したとする説がある。
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シェイクスピアのソネット集から第1番 From fairest creatures we desire increase を読む(壺齋散人訳)
誰しも美しい者の子孫が増えて欲しいと思うもの
そうすればバラの美しさは死に絶えないから
親が時とともに艶を失っても
子がその美しい面影を伝え続けるだろう
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シェイクスピアのソネット3 Look in thy glass, and tell the face thou viewest (壺齋散人訳)
鏡の中を覗き込み、自分の顔に語りかけたまえ
今こそそれと同じ顔を生み出すべき時なのだと
君がもし子どもにその顔を伝えないならば
君は世界をがっかりさせ 女性が母になる喜びを奪う
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シェイクスピアのソネット9 Is it for fear to wet a widow's eye(壺齋散人訳)
君が結婚もせずに人生を浪費するのは
死んで未亡人を悲しませないためかい?
ああ!もし君が子どもを残さずに死のうものなら
世間が未亡人のように悲しむだろうよ
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シェイクスピアのソネット12 When I do count the clock that tells the time(壺齋散人訳)
時計が時を告げる音を数えつつ
日が沈んで恐ろしい夜が来るのを見ると
スミレが花の盛りを過ぎて
黒髪が白銀色に縮れるのをみると
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シェイクスピアのソネット20 A woman's face with Nature's own hand painted(壺齋散人訳)
私の情熱の主人にして女主人でもある君よ
自然が描き出した女性の顔を君は持っている
君はまた女性のような優しい心も持っている
それは普通の女のように浮気なものではない
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シェイクスピアのソネット23 As an unperfect actor on the stage(壺齋散人訳)
駆け出しの俳優が舞台の上で
不安に駆られて役を忘れるように
怒りに取り付かれた男が勢いの余りに
心の冷静さを失うように
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シェイクスピアのソネット27 Weary with toil, I haste me to my bed(壺齋散人訳)
くたびれ果ててわたしは寝床へと急ぐ
旅に疲れた手足を伸ばせるところへと
すると今度はわたしの頭の中での旅が始まり
身体を休めている間に心を労するのだ
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シェイクスピアのソネット29 When, in disgrace with fortune and men's eyes(壺齋散人訳)
運命にも他人の目にも見放され
我が身の不遇を一人嘆きながら
無益な叫びで聞く耳持たぬ天を煩わし
つくづく自分を眺めては身の不運を呪うとき
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シェイクスピアのソネット30 When to the sessions of sweet silent thought(壺齋散人訳)
静かに甘い思い出にふける折
過ぎ去ったことどもを思い起こそうとして
探し求めている多くのものがすでにないことに気づき
昔の悲しみを新たにして時の流れを嘆き悲しむ
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シェイクスピアのソネット35 No more be grieved at that which thou hast done (壺齋散人注)
自分のしてしまったことを嘆くのはもうやめたまえ
バラには棘があるし 泉の底には泥がある
雲は月を隠し 日食は太陽を黒くする
可愛い蕾にも忌まわしい病気が潜んでいるものだ
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シェイクスピアのソネット38 How can my Muse want subject to invent(壺齋散人訳)
わたしのミューズが創造の種に欠くことなどあろうか?
君の息吹がわたしの詩のなかに注ぎ込み
素敵な詩句をもたらしてくれるというのに
それらは通俗的な作品などにはもったいないもの
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シェイクスピアのソネット42 That thou hast her, it is not all my grief(壺齋散人訳)
君が彼女を手に入れたことを 必ずしも嘆くのではない
とはいってもわたしは彼女にぞっこんだった
何よりも嘆かわしいのは彼女が君を選んだこと
愛の喪失がわたしの胸を焦がすのだ
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シェイクスピアのソネット43 When most I wink, then do mine eyes best see(壺齋散人訳)
閉じられている時にこそ わたしの目はよく見える
昼の間はものを見ても 見ていないも同然なのだ
寝ている時には 夢の中で君が見える
君の姿が暗闇の中に明るく浮かび出るのだ
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シェイクスピアのソネット48 How careful was I, when I took my way(壺齋散人訳)
旅に出るときわたしは 念には念を入れて
こまごまとしたものを金庫にしまって鍵をかけ
わたしがそれらを使うまでは
誰にも使われないよう気をつけたものだ
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シェイクスピアのソネット55 Not marble, nor the gilded monuments(壺齋散人訳)
王侯たちの大理石の像も金ぴかのモニュメントも
この力強い詩より長く生き残ることはない
君はこれらの詩句のなかで光り輝く
時の流れに汚れた石像などよりもっと明るく
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シェイクスピアのソネット60 Like as the waves make towards the pebbled shore(壺齋散人訳)
あたかも波が砂浜に向けて押し寄せるように
我々の命も終末に向かって先を急ぐ
後ろのものは前のものと場所を入れ替わり
次々と争うように前へ進んでいく
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シェイクスピアのソネット62 Sin of self-love possesseth all mine eye(壺齋散人訳)
自惚れという罪が私の目や魂
私のあらゆる部分に取り付いている
この罪は私の心に深く根を下ろし
誰も取り除くことはできない
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シェイクスピアのソネット63 Against my love shall be, as I am now(壺齋散人訳)
わたしの愛する人も 今の私のように
時の凶暴な手にかかって打ちのめされるだろう
時の流れが彼の血を干からびさせ
その額を皴だらけにするとき
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シェイクスピアのソネット71 No longer mourn for me when I am dead(壺齋散人訳)
私が死んだからといって もう泣かないでくれたまえ
せめて無愛想で陰気な鐘が鳴り響き
私の死を世間に知らせている間にしてほしい
邪悪な虫が住む邪悪な世の中から私は飛び去るのだ
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シェイクスピアのソネット73 That time of year thou mayst in me behold(壺齋散人訳)
君が私のうちに見るのは一年のうちのあの季節
冷たい風に揺れる枝には葉もなく
あったとしても黄色い枯葉が二三枚
小鳥たちが歌っていた聖歌堂も今は廃墟だ
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シェイクスピアのソネット76 Why is my verse so barren of new pride(壺齋散人訳)
何故こうも私の詩には新鮮味がなく
多様さにも変化にも欠けているのか
何故時には趣向をかえて
新たな詩法や変わった言い回しを用いないのか
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シェイクスピアのソネット81 Or I shall live your epitaph to make(壺齋散人訳)
私が生き残って君の墓碑銘を書くことになろうと
私が墓の中で朽ち果てて君が生き残ろうと
これからは死でさえも君の記憶を消せないだろう
たとえこの私が死んでこの世から消え去ったとしても
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シェイクスピアのソネット87 Farewell! thou art too dear for my possessing(壺齋散人訳)
さようなら 君は私が所有するには価値が高すぎる
君も自分の値打ちが十分にわかっている
君の価値の権利証書が自由放免を保障するのだ
君に対する私の権利は期限切れとなってしまった
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シェイクスピアのソネット89 Say that thou didst forsake me for some fault(壺齋散人訳)
私に欠点があるから見捨てたのだといいたまえ
それに対しては言い訳することがある
私が足なえだといいたまえ 動き回るのをやめるから
だが君がいうことに対してとやかく言うのはやめよう
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シェイクスピアのソネット91 Some glory in their birth, some in their skill(壺齋散人訳)
ある者は家柄を誇り ある者は技術を誇る
ある者は富を ある者は体力を
ある者は俗悪とはいえ衣装を誇り
ある者は鷹や犬や あるいは馬を誇る
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シェイクスピアのソネット94 They that have power to hurt and will do none(壺齋散人訳)
人を傷つける力を持ちながらそうしない人
外見はいかめしいがいかめしく振舞わぬ人
他人を動かしながら自分は石のように
動揺せず冷静で誘惑には慎重な人
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シェイクスピアのソネット98 From you have I been absent in the spring(壺齋散人訳)
春の間私は君と離れて過ごした
誇らしげな四月は色鮮やかな装いのうちに
萬物に青春の息吹を吹き込み
陰気なサターンでさえ笑いかつ踊ったほどだ
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シェイクスピアのソネット101 O truant Muse, what shall be thy amends(壺齋散人訳)
美に染められた真理を無視し続けたことについて
怠惰なミューズよ お前はどう釈明するのだ
真理も美も 私が愛する人に依存する
お前とて同じこと 彼あってこそ威厳がつくのだ
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シェイクスピアのソネット102 My love is strengthen'd, though more weak in seeming;(壺齋散人訳)
私の愛は弱まったのではなく かえって強まったのだ
仕草に現さないからといって 愛し方が弱いわけではない
舌があたりかまわずすばらしさを吹聴するような愛
そんな愛は売り物の愛に過ぎないのだ
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シェイクスピアのソネット106 When in the chronicle of wasted time(壺齋散人訳)
過ぎ去った時代の年代記の中に
美しい人々が描かれているのを読み
今はなき貴婦人や紳士たちを称賛しながら
美が美しい詩句を生み出すのを見ると
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シェイクスピアのソネット111 O, for my sake do you with Fortune chide,(壺齋散人訳)
お願いだから あの運命の女神を非難してくれたまえ
私に悪弊を植え付けた罪深き女神を
彼女が私のために授けてくれたのは
世渡りに必要な処世術だけだ
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シェイクスピアのソネット116 Let me not to the marriage of true minds(壺齋散人訳)
真実の心と心が結ばれるにあたり
障害を介入させないようにしよう
事情が変われば自分も変わり 相手次第で心を移す
そんな愛は愛とはいえない
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シェイクスピアのソネット119 What potions have I drunk of Siren tears(壺齋散人訳)
何という妙薬を私は飲んだことか
それは汚らしいランビキで蒸留したシレーヌの涙
恐れには希望を 希望には恐れを処方するというが
勝ったつもりが負けてばかりの有様なのだ
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シェイクスピアのソネット121 'Tis better to be vile than vile esteem'd(壺齋散人訳)
悪党だと思われるより 悪党であるほうがましだ
そうではないのに そうだと非難されるくらいなら
自分はそう感じないでも 他人の目にそう映れば
正当な快楽も台無しになる
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シェイクスピアのソネット127 In the old age black was not counted fair(壺齋散人訳)
昔は黒を美しいとはいわなかった
仮にそう思っても美と呼ぶことはなかった
ところが今や美の正当な後継者扱い
かえって本物の美が貶められて私生児扱い
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シェイクスピアのソネット128 Oft, when thou, my music, music play'st(壺齋散人訳)
時折君が音楽を、私に音楽を奏でるとき
鍵盤は君の優しい指につれて動き回り
弦は揺れつつハーモニーを発し
私の耳は陶然となるのだ
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シェイクスピアのソネット129 The expense of spirit in a waste of shame(壺齋散人訳)
恥ずべき放埓のうちに精神を費消すること
それが淫欲というもの この欲望を遂げるために
偽証 殺人 流血などの罪もいとわず
野蛮で過激で卑猥で残忍 とても信用できぬ
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シェイクスピアのソネット130 My mistress' eyes are nothing like the sun(壺齋散人訳)
我が恋人の目に太陽の輝きはない
彼女の唇より珊瑚のほうがずっと赤い
雪が白いとすれば彼女の胸の色は薄墨色
彼女の頭には黒い針金が生えている
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シェイクスピアのソネット137 Thou blind fool, Love, what dost thou to mine eyes,(壺齋散人訳)
盲目の愚か者 愛の神よ 私の目に何をしたのだ?
ものを見ているのに 見ているものが見えず
美とは何であり どこにあるかも知っていながら
最悪のものを最善のものと取り違える有様なのだ
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シェイクスピアのソネット147 My love is as a fever, longing still(壺齋散人訳)
私の愛は熱病のようなもの
病気をさらに養い育てるものを追い求め
患いを長引かせるものを欲しがり
変わりやすく病的な欲望を満たそうとする
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シェイクスピアのソネット154 The little Love-god lying once asleep(壺齋散人訳)
小さな愛の神キューピッドがまどろんで横たわり
人の心に火をたきつける松明を傍らに置いていると
純潔のうちに生きているあまたのニンフたちが
軽やかな足取りで通りがかった
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