正月をすぐ近くに控え、デパートやスーパーではおせち料理の商戦が熱気を帯びてきたようだ。一流の料亭による凝った重箱やら、スーパー自社ブランドの手頃な価格のものやら、豊富な品揃えで消費者の食欲と美意識に訴え、財布の紐を緩めさせようと、みなさん躍起だ。
筆者の家も数年前から、デパートのおせち料理で正月を過ごすようになった。なにしろ細君は職業婦人でもあり、また子どもが成人して手料理をつくってやる楽しみが薄れたのか、デパ地下の世話を借りて正月の食卓をしのぐようになったのである。
毎年買うべきものを決めるのは細君、買ってくるのは筆者の役目だった。大体2万数千円から3万円くらいの2段重ねの重箱がこれまでの定番だった。おせち料理などというものは元旦の朝に食うのが主な用途であるから、これで十分なのだ。
今年も例年通り細君が選んで、それを亭主である筆者に予約して来いと命じた。筆者は細君から渡された申し込み用紙を持って、早速船橋のデパートに赴いた次第であった。ところが金を支払う段になって、意外なことが起こった。筆者は例年のように、今年も2万数千円ないし3万円くらい支払うつもりであったのが、請求された金額は1万数千円だったのだ。
何故いつもより廉いものを選んだのか、家に戻って細君にその訳を聞くと、細君がいうには、世の中が不景気なのだから、私たちの家にも不景気風は吹いているのよとのこと。どうやら世の中の不景気風に付き合っているつもりのようである。
不景気風というのは、どこでどんな吹き方をするか、わからぬ代物らしい。実際に風に吹かれて札束に逃げられてしまったものは無論、当面の金に困らぬ人々まで、財布の紐を締めたがるようにさせる。もっとも筆者の家に金が有り余っているということではないが。
ところで世の中には、この不景気を逆手にとって、筆者の細君とは異なった行動をとる人たちもいるらしい。事情通によれば今年のおせち料理は、安い価格のものと並んで、高価なものも売れているとのこと。中にはカラスミやキャビアを入れた10万円以上の豪華重箱が、例年より3割も多く売れているという。
一方で、円高にもかかわらず海外で正月を過ごそうとする人の数は激減している。そういった人たちが、海外旅行をあきらめた見返りに、高価なおせち料理を選んでいるらしいのだ。これには、家を買うことができないかわりに、高級な車を手に入れたいと願う人と、同じ心情が働いているのだろう。
どうも、不景気風というのは、尋常な吹き方をしてくれないようだ。
関連リンク: 日々雑感
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