ギュンター・グラスが投げかけた波紋

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「ブリキの太鼓」などで知られるドイツ人のノーベル賞作家ギュンター・グラスが、84歳の高齢で歌い上げた一片の詩が、複雑な波紋を生じさせている。

「いまこそ言わなければ」と題したこの詩は、イランの核兵器開発を巡ってイスラエルが先制攻撃も辞さないという姿勢を示していることについて、イスラエルはただでさえ不安定な国際社会をますます不安定にさせている、と批判したものだ。

これに対して、イスラエル政府は大きく反発し、グラスをイスラエルの敵としたうえで、彼の入国を禁止する措置をとった。これに対しては、「悪魔の詩」でイランのおたずね者になったサルマン・ルシュディー氏さえも、大人げないと批判したが、イスラエル国内の民間の論調も、政府のやり方をさめた目で見ているようだ。

一方、ドイツ国内では、外務大臣のヴェスターヴェッレがいち早く、グラスの行為を厳しく批判した。グラスが若い頃にSSの成員であったことは自分でも認めたとおりで、若気の至りだったとはいえ、彼がナチズムの片棒を担いだことは、まぎれもない歴史的事実だったということになっている。そんなグラスが、イスラエルを批判する資格など、どこにもないという理屈だ。

ドイツ政府がこんなに神経質な反応をするのは、無論過去の重い歴史があるからだ。

しかしそういう意見ばかりが、ドイツ人の共通意見というのでもないらしい。ほかならぬイスラエルの新聞マリヴ(Ma'ariv)の論説員イェミニ(Ben-Dror Yemini)氏が紹介している世論調査によれば、ドイツ人の大多数は、イスラエルがパレスティナ人の殲滅を意図していると受け止めており、また40パーセントの人々は、今のイスラエルのやり方はかつてのナチスと共通するものがあると感じている、と紹介している。氏はそれをもとに、イスラエル政府に一定の自制を求めているようだ。

波紋を巻き起こした当のグラスは、84歳という高齢もあって、自分が立てた波紋の効果を避けるように、病院に避難して安静をとったそうだ。(写真は最近のグラス:AFPから)





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このページは、が2012年4月19日 19:55に書いたブログ記事です。

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