李白の七言古詩「夜郎に流され辛判官に贈る」(壺齋散人注)
昔在長安醉花柳 昔 長安に在りて花柳に醉ふ
五侯七貴同杯酒 五侯七貴 杯酒を同じくす
氣岸遥臨豪士前 氣岸遥かに臨む豪士の前
風流肯落他人後 風流肯へて他人の後に落ちんや
夫子紅顏我少年 夫子は紅顏 我は少年
章臺走馬著金鞭 章臺に馬を走らせて金鞭を著く
文章獻納麒麟殿 文章獻納す麒麟殿
歌舞淹留玳瑁筵 歌舞淹留す玳瑁の筵
昔我々二人は長安にあって花柳に醉い、五侯七貴と呼ばれる人々と杯を交し合ったものだ、意気盛んなことは豪士に劣らず、風流では誰にも負けなかった
君は紅顔、自分は少年、ともに章臺に馬を走らせて金の鞭を振るったものだ、文章を作っては麒麟殿に収め、歌舞楽しみながら華やかな宴席に連なった
與君自謂長如此 君と自から謂ふ 長へに此の如しと
寧知草動風塵起 寧ぞ知らん草動いて風塵の起こるを
函谷忽驚胡馬来 函谷 忽ち驚く胡馬の来るに
秦宮桃李向胡開 秦宮の桃李 胡に向って開く
我愁遠謫夜郎去 我は愁ふ 遠く謫せられて夜郎に去るを
何日金鶏放赦廻 何れの日か 金鶏放赦して廻らん
君と語り合ったものだ、いつまでもこのようにありたいと、どうして知ることができただろう、いまこうして戦乱に巻き込まれるとは、函谷関には胡馬が押し寄せ、長安の都の桃李の花が胡を迎えて開いている
自分はこうして遠く夜郎に流されていくのを憂える、いつか日にか放免を知らせる金の鶏がわたしのもとにやってくるかと願いながら
李白は夜郎に流されて長江をさかのぼる途中、漢口にしばらく滞在し、昔の友人たちと旧交を温めた、この詩はそんな友人ん一人に贈ったものだ。長安時代の懐かしい思い出に耽りながら、世の中が戦乱に巻き込まれて乱れているのを憂えている。
そして自分の身についても、いつか金の鶏が赦免の知らせを持ってきてくれることを期待している。(金の鶏は恩赦の知らせをもたらすために使われた小道具)
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