金正日の訪中は北朝鮮に何をもたらしたか

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5月3日から5日間にわたって行われた金正日の突然の訪中は、日本や韓国を始めとした関係各国を驚かせた。というのも、韓国軍の哨戒艦沈没事件をめぐって、その原因が北朝鮮の発した魚雷である可能性が高まってきたことを背景に、緊張が高まっているなかで、なぜ中国が金正日を受け入れたのか、その真意が測りかねたからだ。

金正日の訪中はこれまで何度かなされたが、そのたびに秘密に近い扱いをされ、全貌が明らかにされるのは、訪中が終わってからだった。だから今回もその延長上と考えれば、騒ぐほどのこともないのかもしれないが、今回の場合は事情が特殊すぎた。

まず金正日の訪中の目的は何だったのか。最大の目的が、国際的な経済封鎖の中で苦境に陥った経済状況に対して、中国の援助を取り付けようとする狙いがあったことは察せられる。そのほかに、哨戒艦沈没事件でかつてなく高まっている軍事的な緊張に対して、中国の理解と協力を求めたいといった思惑もあったのだろう。

とにかく、最近の北朝鮮は、2度にわたる核実験やミサイルの発射実験、また6カ国協議からの一方的な離脱などによって、国際的な孤立を深めてきた。金正日はその孤立によるリスクよりも、自分自身の権力基盤を優先してきたのだろうが、ここへきてその孤立路線が耐え難いほどの犠牲を北朝鮮の人民に負わせるようになった。このままでは自分の権力基盤そのものが危うくなる。そんな計算が働いていたのだと思われる。

そうした外部からの憶測をよそに、中国のメディアは大連や青島の工業特区を視察する金正日一行の姿を報道するばかりだった。何しろ中国はいま上海万博の真最中だ。金正日の動向に興味を示す中国人はそう多くはいない。

結局金正日が中国を去った7日になって始めて、新華社通信が金正日と胡錦濤の会談の内容を伝えた。(上の写真は握手する金正日と胡錦濤:毎日新聞提供)

会談の中で金正日は「朝鮮半島の非核化を堅持する立場にはいかなる変化もない」などと述べた上で、場合によっては6カ国協議へ復帰する考えを示したが、それには「関係各国が誠意を示すべきだ」と付け加えた。(毎日新聞から)

この誠意なるものが何をさすのか、また誠意を示すべきなのは北朝鮮自身なのではないかとの関係各国の言い分もあるだろう。だがそれはおいて、胡錦濤がどう答えたか、そこに興味が湧く。

胡錦濤は北朝鮮との関係を「友好協力」と表現した。前回の金正日訪中時(06年1月)には「善隣友好協力」といっていたから、今回はそこから「善隣」を落とした格下げだ。これは北朝鮮の度重なる変節に対する中国側の不信感を表明したものだと受け取られている。

また金正日が「伝統的な友情は時代という風雨の試練を経ており、時間の推移や世代交代によって変化することはない」といって、中国との関係強化を改めて協調することを通じて、自分の息子への権力交代に対する後ろ盾を暗に求めたのに対して、胡錦濤は「中朝の友情を時代とともに前進、発展させる」と答えた。

この「時代とともに前進、発展させる」という言葉は、関係見直しに言及する際の中国側の常套文句だというから面白い。

つまり胡錦濤は金正日に対して、もうこれまでのような行為は許さないぞ、という考えを婉曲に伝えたわけだ。

国際的な孤立を深める北朝鮮にとって、中国は唯一頼れる兄貴のような存在だった。その中国からも見放されるようでは、金正日の北朝鮮もそろそろ先が見えてきたということになろう。





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このページは、が2010年5月 8日 20:26に書いたブログ記事です。

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