碌山美術館は、明治時代の彫刻家荻原守衛の記念館として、半世紀ほど前に安曇野に建てられた。30万人もの人から集まった寄付金によるという。北アルプスの峰々を背景に、レンガ造りの瀟洒な建物が艶っぽいたたずまいを見せ、その中には力強い作風で知られる守衛の彫刻作品が飾られている。
筆者は荻原守衛という彫刻家の名は以前から知ってはいたが、親しくその作風になじむというわけではなかった。まして安曇野の一角に、彼の作品を集めた記念館があるなどということも知らなかった。
筆者が日ごろ絵ほどきを受けている鈴木輝美画伯が、荻原の大のファンだということで、その彼が塾生たちを連れて安曇野にスケッチツアーを催したついでに碌山美術館にも立ち寄った。その際管理人の女性から守衛の業績について色々聞かされるところがあった。そこでこの芸術家の存在が、改めて筆者の視界に入ってきたというわけなのだ。
荻原守衛は明治10年代の生まれだというから、高村光太郎と同時代人だ。幸太郎のほうは日本の近代彫刻の先駆者として、今では子供でも知らぬものはないほど有名になったが。守衛はそう有名ではない。だが彫刻を志すものの間では、幸太郎に劣らぬほど評価が高いそうだ。
それは彫刻作品のもつ荒々しいエネルギーが、今日の人々に訴えかけるものを持っているからだ。筆者は絵は描くが彫刻は作ったことはないので、彫刻を云々する資格はないかも知れぬが、見て良いものはわかるつもりだ。荻原守衛の作品はそんな筆者の感性にも、するりと入り込むものがあった。
だがこの美術館は、守衛の彫刻作品もさることながら、建物のたたずまいがよい。とにかく絵を描くものにとっては、絵になる眺めなのだ。
設計したのは今井兼治という早稲田の建築家だそうだが、荻原にはそれなりの思い入れがあったのかもしれない。荻原がクリスチャンだったことを考慮して、教会風のシルエットに仕上げている。
初めてこの建物を目の前にしたとき、筆者はすぐさまスケッチしてみたい気持ちに駆られた。だがバスツアーの徒次に立ち寄ったほどだから、それだけの時間の余裕がない。そこでとりあえずというわけではないが、絵になりそうな角度から何枚かの写真をとってみた。
そのうち気が向いたら、それらの写真をもとに淡彩画でも描いてみたいと思う。
コメントする