エドガー・ポーの詩「ヘレンへ」To Helen(壺齋散人訳)
ヘレン あなたの美しさは
古代のニケアの帆船のようだ
馥郁たる海をわたって
旅に倦んだ放浪者を
祖国の浜に運ぶという
長らく海に暮らしたわたしを
あなたのヒアシンスのような髪 端正な顔
ナイアドのような物腰が
うるわしいギリシャの美
古代ローマの栄光に連れ戻す
あの小さな窓を背景に
あなたは彫像のように立っている
巻物の書を手にしながら
まるで天空から天下った
プシケの姿を見るようだ
「ヘレンに」と題したこの詩をポーが書いたのは1831年だが、詩想そのものは十代半ばの少年の頃に得たといわれている。友達の家に遊びに行ったポーは、その母親 Jane Stanard にやさしくされ、すっかりとりこになってしまった。少年心に抱いたこの恋心をポーはずっと詩のテーマとしてしまってしたが、青年期に達した時点で、完成させたというのである。
ポーはこの女性にヘレンと呼びかけている。ヘレンとはトロイ戦争のきっかけを作ったあの美人を指すのだろう。ポーはこうした言いかえを通じて、自分の思い人を単なる現実の女性としてではなく、永遠に理想化された美の典型として描いている。
ポーは生涯を通じて女性の美しさを歌うのが好きな詩人だった。この詩はその原型となるものである。
To Helen By Edgar Allan Poe
Helen, thy beauty is to me
Like those Nicean barks of yore,
That gently, o'er a perfum'd sea,
The weary way-worn wanderer bore
To his own native shore.
On desperate seas long wont to roam,
Thy hyacinth hair, thy classic face,
Thy Naiad airs have brought me home
To the beauty of fair Greece,
And the grandeur of old Rome.
Lo ! in that little window-niche
How statue-like I see thee stand!
The folded scroll within thy hand --
A Psyche from the regions which
Are Holy land !
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