台風12号は、四国。中国を横断して日本海に抜けた後も、勢力の強い温帯低気圧として北海道にも大雨を降らすなど、ほぼ一週間の長きにわたって、日本列島の各地に甚大な被害をもたらした。死者・不明者は106人にのぼり、同99人を出した平成4年の台風23号を上回り、平成に入って最悪の記録となった。
今回の台風の最大の特徴は、バケツをひっくり返したようなすさまじい雨が、かなり長期間にわたって降り続いたことだ。その結果崖くずれや洪水が各地で発生し、甚大な被害をもたらした。多くの地域で周囲から孤立し、救助をまつ集落もかなりの数に上った。
もっとも雨が多かったのは紀伊半島だ。奈良県上北山村に設置されていた雨量計は、8月30日の降り始めから9月5日までの一週間に、実に2439ミリの降雨量を記録した。一回の降雨量が2000ミリを超えたことは今までになかったことだ。いかに記録破りのすさまじさだったか、わかろうというものだ。
紀伊半島はもともと雨が多いことで知られていた。太平洋で発生した大量の水蒸気が南風に乗って近畿の屋根と飛ばれる山岳地帯にぶつかり、そこで雨雲を発生させる。雨雲は海からたえず供給される水蒸気によって、連続的に形成され、長い時間にわたって雨を降らせるというメカニズムだ。
今回はその雨雲の上空に、台風によって形成された分厚い雨雲が覆いかぶさるような形になった。その結果、雨雲の多層の塊が紀伊半島の上空を覆い、すさまじい雨を降らし続けたというわけだ。
この大量の雨によって生じた崖くずれは、規模の大きさから深層崩壊であった可能性が高い。それこそ山全体が崩落するようなすさまじい崖くずれだ。
今回の台風災害は、計画的非難の重要性を改めて教えてくれたのではないか。
こういう災害が生じると、土木屋の利益共同体みたいなのがしゃしゃり出てきて、それみたことか、これは治水について必要な投資を怠ってきた結果だなどと脅しをかけたりするものだが、治水工事を完璧におこなうには巨額の金がかかるし、いくら金をかけたところで、日本列島をくまなく安全な状態に改造することは不可能に近い。
そこで、災害から身を守る最も確実な方法は、災害が起こりそうなところには住まないということになる。どうしても住まなければならない場合には、災害が起こりそうなときにすばやく非難できるようにしておくことが次善の策となる。どんなに危険であっても、それを早い時点で察知し、タイミングよく逃げておけば、命を落とさずにすむというものだ。
今回の災害をみていると、非難がかなり遅れたことが目に付く。住民自身の油断の気持ちが働いたケースもあるだろうが、適切な情報がタイミングよく伝わらなかったことが、彼らの判断を誤らせた側面も否定できない。
災厄から身を守るためのイロハは、早く逃げるということだ。この古来からの人間の知恵を、将来にわたって生かしていけば、今回のような災害も防げるのではないか。(写真はCNNから)
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